そのピーク、本当に“不純物”ですか?
6 19, 2026
「あれ、このピーク、何だろう?」
XRDの測定後、プロファイルを眺めながらそう感じたことはないでしょうか。
実際、私も新人の時に「試料由来のピークにしては変だな」と思っていたら、スリット条件が適切ではなく、先輩から「試料からX線がはみ出しているんじゃない?」と言われ、再測定になった苦い思い出があります。
見慣れないピークが出てくると何から考えればよいのか分からず、手が止まってしまうことも多いのではないでしょうか。
前回の記事“XRD測定でよくある問題とその解決法”の第3章「見覚えのないピークが出てくる問題」への質問が多く寄せられたため、本記事では「このピークは不純物なのか?」と迷ったときに、何から疑うべきなのかを整理してお伝えします。
目次
1.まずは“測定条件”を疑う
まず、「試料由来だ!」と思い込んでしまう前に、一度測定条件を見直してみましょう。X線の照射幅を無視してスリットを設定してしまうと、試料からはみ出して試料ホルダーからのピークを拾ってしまいます。
ポイント1:ブランク測定を行う
特に医薬品の分野だと試料量が少なく、強度を稼ぐためにスリットを広めに設定してしまいがちです。スリットを広げる前に、ブランク測定を行い、X線のはみ出しで試料とは関係ないピークを拾っていないか、一度確認しましょう。
また、有機物はX線の吸収率が低く、X線がはみ出していなくても試料を突き抜けてホルダー由来の回折線が現れることが多いです。ホルダー由来の回折線かどうかを見分けるためにも、ブランク測定は有効です。
ポイント2:Si標準試料で確認する
Siを測定したときにSiとは関係ないピークが見られた場合は、Kβ線や管球の劣化による可能性が高いです。これについては前回の記事で紹介したので、そちらを参考にしてください。

2.“試料由来かどうか”は再現性試験を
次に、ピークが試料由来の不純物かどうかを確認するために、再現性を確認します。ここでは、同じ試料を複数の試料ホルダー(N=3を推奨)で測定します。
ここで、
- 毎回同じ位置にピークが出る
- ブランク測定ではピークが出ない
などが当てはまる場合、試料由来の可能性があります。
反対に、
- 粉砕条件を変えたら出たり出なかったりする
- 他のXRD装置で測定するとピークが再現しない
などの場合は、測定前の試料の調製方法(粉砕機からのコンタミ)や測定光学系由来の可能性が高いです。
“再現するか”だけでなく、“どの条件で再現するか”まで確認することが、問題解決のポイントです。
3.“多形”の判断は慎重に
医薬品試料の場合、変なピークが現れるとまず「多形なのでは?」と疑ってしまいます。
有機物の結晶は格子定数の大きい複雑な結晶構造を有するため、2θ=5~30°にピークが集中するという特徴があります。
主要相のピークとは別に、低角度から40度付近までに複数の新しいピークが出現した場合は、多形の混在や分解物の生成を疑うことが多いです。
反対に、高角度側だけにピークが現れる場合は、ホルダーやX線のはみ出しなど測定由来と考えたほうが自然です。
ただし、多形かどうかの判断を1回の測定だけで判断してしまうのは危険です。
他のロットでも再現するか、加熱や湿度、保存時間を変えた時にピークが再現するか、といった試験を繰り返すことで、本当に多形なのかを見極めることができます。
また、熱分析など他の分析手法と組み合わせると、判断材料としてより確かなものになります。

まとめ:判断する上での3つの視点
「このピーク何?」と迷った時のポイントは、「いきなり試料を疑わないこと」です。
- 測定条件は適切か
- 再現性は確認できるか
- 多形として自然なピークの出方か
この3つの視点で整理することで、不純物かどうかの判断精度は大きく変わります。
私たちのような分析に携わる立場でも、原因が分からず行き詰まってしまうことは少なくありません。
そんなときは、視点を一つ戻して考え直すことが、結果的に最短ルートになるかもしれません。