錠剤の溶出速度を決める要因とは?成分と構造からの多角的アプローチ
3 24, 2026
今シーズン、家族がインフルエンザにかかりました。
解熱剤を使い、少しでも早く、そして長く効いてほしいと願われた方は、私以外にもいらっしゃるかもしれません。このような医薬品の即効性、持続性の評価にも関連する溶出試験は、経口固形製剤の品質に関わる最も基本的な評価と言われています。
しかし、処方と工程が同一であっても、錠剤の溶出速度が一致しないケースは珍しくありません。このような溶出のばらつきは、原薬の物性、添加剤の配合、粒子構造、打錠条件など複数の要因が複雑に絡み合って生じます。
今回は、溶出速度を左右する主な要因を整理し、成分分析と構造評価を組み合わせて原因を特定する考え方をご紹介します。
目次
1. 溶出速度を決める要因
① 原薬の物性(結晶構造・粒径・表面性状)
固体原薬の多くは結晶性物質であり、結晶構造が異なる多形では溶解速度が変化します。不安定で結合エネルギーの弱い多形は溶解しやすいため、混合や圧縮過程で固相転移が起きると、同じ原薬でも溶解速度に差が生じます。また、粒径が小さいほど比表面積が大きく溶けやすいため、粒径分布も重要な因子です。
② 賦形剤の組成と機能(種類・粒径)
乳糖、セルロース、デンプンなどの賦形剤は、崩壊性・濡れ性・流動性に影響を与え、結果として溶出速度を変動させます。賦形剤の種類や粒度が異なると、同じ原薬でも水の侵入の仕方や崩壊挙動が大きく変わるため、処方最適化の段階で注意が必要と言われています。
③ 錠剤の内部構造(空隙・凝集・密度分布)
成分が同じでも、粒子の凝集状態や空隙の構造に違いがあると、水の浸透速度や崩壊速度に差が生じます。打錠圧が高すぎると錠剤が密になり、崩壊しづらくなる場合もあります。このような構造の違いを把握することは、溶出のばらつきの原因を究明する鍵となります。

2. 成分の違いを調べる方法(製剤中の多形の同定)
製剤の溶出速度が異なる場合、まず確認すべきなのは、本当に同じ原薬が同じ状態で含まれているかどうかです。処方検討や製造工程で結晶構造が変化する場合、その違いが溶出速度の差となって現れるため、製剤開発において結晶多形の管理は非常に重要です。
以前にもご紹介したように、粉末X線回折(PXRD)は、原薬の種類、あるいは多形を同定する代表的な手法です。図1にはPXRDに使用される試料ホルダーの写真を示します。PXRDでは、一般的に粉末試料を試料ホルダーに充填し、表面を平坦にならして反射法で測定します。錠剤を粉砕して粉末状にすれば、この方法で多形を調べることができます。一方、透過法の光学系で錠剤測定用の試料ホルダーを用いれば、非破壊で錠剤中の原薬の多形を同定できます。
図1:PXRDの試料ホルダー(左 反射法・粉末測定用、右 透過法・錠剤測定用)
図2には、錠剤測定用のホルダーで測定した錠剤(テオドール錠)の例を示しました。錠剤の測定パターンと原薬のパターンの比較から、錠剤に含まれる原薬が無水物型結晶であることがわかります。
図2:錠剤と原薬のPXRDパターンの比較
3. 構造の違いを調べる方法(粒子分布・空隙構造の観察)
原薬の成分や結晶構造が同一であっても、溶出速度が異なることがあります。この場合、製剤内の粒子や空隙の構造の差異が原因である可能性が高くなります。以前のブログでもご紹介したように、X線CTは、非破壊で試料内部を3次元的に観察できるツールです。錠剤を切断せずに内部構造全体を確認できるため、溶出の遅れの原因となる粗大粒子や局所的な空隙、圧縮ムラなどが可視化されます。
ここでは、原薬と賦形剤の組成が同じ錠剤a:先発医薬品、b:ジェネリック医薬品の評価事例をご紹介します1)。
ラマン分光法とPXRDにより、錠剤aとbの成分は同一であることが確認されました。しかし、二つの錠剤は異なる溶出試験プロファイルを示し、錠剤aは80%溶出まで約5分、錠剤bは80%溶出まで約15分と、溶出速度が大きく異なりました。
図3には錠剤a、bのX線CT画像を示します。内部構造を比較すると、錠剤aは均一で微細な粒子から構成され、錠剤bには数百µmの粗大凝集体が複数存在していることがわかります。論文では、この凝集体の存在が溶解を遅らせ、溶出プロファイルの差を生んでいる可能性が示されています。
なお、ここに示されているX線CT画像は当社X線研究所で撮影され、明治薬科大学の深見先生により発表されたものです。

図3:錠剤a、bのX線CT画像(矢印:凝集体)
4. まとめ:製剤評価の重要性
多くの医薬品製剤を分析してきて、構造と物性には相関があること、そして結晶の構造も製剤の構造も重要な要素であることを、多くの方にお伝えしたいと考えています。
今回ご紹介したように、錠剤の溶出速度は、成分・結晶形・粒子性状・空隙構造・打錠条件などが複合的に影響して決定されます。溶出のばらつきを解消するには、成分分析と構造分析という多角的アプローチが不可欠です。開発段階でこれらの視点を取り入れることで、量産時の不合格ロット削減、溶出プロファイルの安定化、品質トラブルの予防につながります。
この記事が、溶出のばらつきに悩む皆様にとって、問題を解決するヒントとなれば幸いです。
参考文献
1)Journal of Drug Delivery Science and Technology, Volume 31, 2016, 35–40