XRD測定でよくある問題とその解決法

1 27, 2026

医薬品の開発現場では、原薬の多形スクリーニング、製剤中の結晶相の同定、品質管理など、XRD は多くの役割を担っています。
一方で、「昨日の測定とピーク位置が少し違う」「強度比が毎回違う」「見たことのないピークが現れた」といった“原因不明のピーク”に悩まされる担当者も少なくありません。

特に医薬品などの有機物は、配向しやすい、粉砕するとアモルファスや他の多形に転移するなどXRD 測定に対してシビアな性質をもつものが多く、ちょっとした要因が多形判定や同定結果に影響します。

この記事では、医薬品分野に限らず実際によく見られる XRD測定で判断に迷いやすいケースと、その回避の考え方を分かりやすく解説します。

 

目次

  1. ピーク位置の「微妙なシフト」問題
  2. 強度比が変わってしまう問題
  3. 見覚えのないピークが出てくる問題

 

1. ピーク位置の「微妙なシフト」問題

― 多形判定に致命的になりうる、よくある「シフト」の正体

医薬品分野では わずかな 2θシフトが多形判定や規格値の適否に関わることがあり、ピーク位置の再現性は非常に重要です。
ところが、最もよくある原因は意外にも 「試料の偏心(高さずれ)」 です。

  • すべてのピークが高角度側/低角度側にシフトしている場合

試料が基準面より高すぎたり低すぎたりすると、検出される回折角が本来の位置からずれてしまいます(偏心)。その結果、結晶構造が変化していなくても、回折プロファイル上ではピーク位置のシフトとして観測されます。
特に原薬は流動性の低い粉末が多く、「薄く広げる・平らにならす」といった作業が難しいため、試料面の高さがばらつきやすく、ピーク位置は偏心の影響を強く受けます。

対処の基本は「必ず試料面が基準面にあることを確認する」または「試料位置調整を実施する」ことです。

Figure1_Angle deviation due difference sample surface height図1. 試料面の高さの差による角度ずれ

  • CIF データと合わない場合

単結晶構造解析から提供される CIF データは、低温で測定されていることがよくあり、その場合は格子定数が室温とは異なります。
有機化合物は熱膨張率が比較的高いものが多く、CIF と XRD プロファイルがピタッと一致しない理由が、測定時の温度差によるケースは意外とよくあります。

“実物の粉末”が間違っているのではなく、単に測定環境が違う──という典型例です。

Figure2_Comparison XRD profile CIF data図2. XRDプロファイルとCIFデータの比較

では、試料の偏心と格子定数、どのように見分ければよいでしょうか。
試料の偏心は低角度側でピークのシフト量が大きくなります。
一方、格子定数の差異は高角度側にいくに従いピークシフトが大きくなります。
このように、プロファイル全体を俯瞰し、低角度側と高角度側でのシフトの現れ方を比較することで、試料の偏心と格子定数の差異を見分けることができます。

 

2. 強度比が変わってしまう問題

― 多形識別のキモとなる「強度」の再現性

医薬品の多形判定は、ピーク位置だけでなく、強度比が重要になります。
しかし、この強度比が安定せず苦労するケースが非常に多いです。

  • 粒径と配向:医薬品ならではの“ばらつき要因”

医薬品の現場で扱う粉末は、粗大粒が混じりやすかったり、針状・板状結晶で強く配向したりと、強度比がばらつく条件が揃っています。

前回のブログ(試料調製で結果が変わる?粉末X R D測定のベストプラクティス)でも紹介した通り、粒径が大きいと、ランダムな方向にX線が回折せず、強度比は安定しません。
また、針状結晶は特定の面が優先的に並んでしまうため、あるピークだけが極端に強く観測されることがあります。

  • 入射スリット幅の設定も盲点に

スリット幅が違うと、入射 X 線の総量やX線の照射領域が変わり、低角度側のピーク強度が大きく変動します。
特に、装置を複数の分析者で共有している場合や装置更新時に、入射スリット幅を見落としやすく、陥りやすい問題です。

「前と同じスリット設定か?」「固定スリット測定・可変スリット測定のどちらか?」
強度が合わないときは、まずここを疑うのが得策です。

Figure3_Difference profile depending slit width図3. スリット幅によるプロファイルの違い

 

3. 見覚えのないピークが出てくる問題

― 不純物ではなく“試料由来ではない要因”の可能性も

医薬品の分析では、未知のピークが現れると「分解した?」「新しい多形が出た?」と不安になりますが、実際には装置やホルダーに起因する場合がよくありがちです。

  • ホルダー由来のピーク

Al製の試料ホルダーなど、材質によっては固有のピークが出ることがあります。
まず試料のないホルダーのみの測定(ブランク測定)を試してみるだけで原因が即座に判明するかもしれません。

Figure4_Blank measurements various holders図4. 各種ホルダーのブランク測定

  • Kβ フィルターの未装着・厚みの変化

Kβ 線が混入すると、強度の高いピークの近く(低角度側)に、見慣れないピークが現れることがあります。
こうした現象は、装置の更新後や移設後、メンテナンス直後など、装置環境が変化した直後に起こりやすいのが特徴です。
多くの場合、Kβ 線を除去するためのフィルターが未装着であったり、フィルターの厚みが適切でなかったりすることが原因となっています。

Figure5_With without Kβ filter図5. Kβフィルターあり/なし

  • 管球の劣化による不純線

X線管球を長時間使用すると、管球の劣化に伴って不純線が発生することがあります。

これは、装置を更新した際や、同じサンプルを異なる装置で測定したときに、違いとして気づくケースが多いのが特徴です。

管球の使用時間が規定値に近づいている場合や、全体的に回折強度が低下してきたと感じられる場合は、管球の劣化が進んでいるサインと考えられます。

そのような場合には、管球の交換や適切なメンテナンスを検討することを推奨します。

Figure6_Image profile impurities from tube図6. 管球による不純線のイメージプロファイル

 

まとめ

XRD は、測定条件や試料調整方法などのわずかな要因でピークがシフトしたり、強度が変わったりする場合があります。
しかし、その多くは正しいメンテナンス・確認作業・装置設定によって防げるものです。

多形評価や原薬の品質を正しく判断するには、測定結果だけでなく、その見え方の理由を回折の原理から理解することが大切です。

XRD は単なる測定装置ではなく、医薬品開発の信頼性を支える解析ツールです。
日々の“ちょっとした変化”に気づけるようになると、XRDデータの解釈が安定し、判断に迷う場面が大きく減ります。

わたしはXRD分析を中心に、依頼分析から顧客サポート、開発製品の検証まで幅広い業務に携わってきました。医薬品に関する知識を基礎から徹底的に学び、今も日々試行錯誤の連続です。専門家としてだけでなく、同じ”実験で悩む立場”として、読者の皆様に寄り添える情報を発信していけたらと思います。