プレフォーミュレーションでPXRDが活躍する3つの場面 ― 結晶性評価から原薬形態スクリーニングまで

10 21, 2025

プレフォーミュレーションでPXRDが活躍する3つの場面
 

医薬品開発の初期段階、”プレフォーミュレーション(Preformulation)”は、原薬(API)の物理化学的特性を理解し、最適な製剤設計を行うための重要なステップです。この段階での評価が不十分だと、後工程で結晶多形の変化や溶解性の問題が発生し、最終製品の品質や安定性に影響を与える可能性があります。

その評価を行ううえで、欠かせない分析手法が粉末X線回折(PXRD: Powder X-ray Diffraction)です。
PXRDは、結晶多形や結晶化度、水和物などの固体状態を直接観察できるツール
であり、医薬品開発のさまざまな局面で活躍しています。

本記事では、プレフォーミュレーションでPXRDが活用できる3つの場面を、わたしの経験や具体例を交えて詳しく解説していきます。

 

目次

  1. 多形スクリーニング(Polymorph Screening)
  2. 結晶化度評価(Crystallinity)
  3. 安定性試験(Stability Studies)

 

1. 多形スクリーニング(Polymorph Screening)

多形とは、同じ化学組成でも分子の配列や結晶構造が異なる固体のことを指します。
この結晶構造の違いは、溶解性や安定性などの物理化学的特性に大きく影響します。
そのため、製剤設計や品質管理の観点からも、多形の制御は非常に重要です。
特に新薬開発の初期段階では、多形スクリーニングによって複数の結晶多形を評価し、安定性・再現性の高い形態を選定することが、成功する開発の第一歩となります。

PXRDは、多形ごとに異なる“パターン(位置・強度)”を示すため、異なる多形の判別に非常に有効です。
図に示すカルバマゼピンのⅠ型とⅢ型ではピーク位置に顕著な差があり、PXRDを使えば一目で区別できることが分かります。 

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さらに、PXRDで得られたパターン情報は、特許申請や承認資料の裏付けデータとしても活用されます。

ここで注意が必要なのが、試料の状態です。

粗精製直後のような粒の大きい試料は、試料ホルダーに詰め替えるたびに異なるパターンが得られることがあります。粗大粒を含むと、データの再現性が悪くなってしまいます。
同じロットでピーク強度のばらつきが見られたら、まず粗大粒の可能性を疑い、粉砕して再測定することをお勧めします。また、粉砕処理により変化してしまう試料については、回転させて測定することで、強度比の再現性を向上させることも可能です。

 

2. 結晶化度評価(Crystallinity)

結晶化度は、一つの化合物の中にどれだけ結晶成分を含むか(または非晶質成分を含むか)を示す指標であり、溶解性・安定性の予測や、製剤設計における非晶質化戦略の判断に直結します。

PXRDでは、鋭いピークが結晶からの散乱、広がったラクダのこぶのような山(ハロー)が非晶質からの散乱を示し、これらの面積(積分強度)から結晶化度を算出します。

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しかし、筆者の経験上、結晶化度が90%以上の試料はPXRDで正確に結晶化度を求めるのが難しいことがあります。これは、非晶質成分が10%未満の場合、ハローの積分強度が低くなり、バックグラウンドとの分離が難しくなるためです。
このような場合は、DSC(示差走査熱量測定)などの他の手法との併用が有効です。

 

3. 安定性試験(Stability Studies)

保存中に結晶が変化しないことを観察する安定性評価は、結晶多形の選定において必要不可欠です。
湿度・温度・光などのストレス条件下で、結晶相転移や非晶質からの結晶化が起きると、薬の溶解性や吸収性が変わる可能性があります。

PXRDは、非破壊で試料を測定できるため、長期保存試験や加速試験でのモニタリングに最適です。
ピークのわずかな強度変化を追跡することで、結晶相転移を定量的に把握できます。

さらに、温度湿度制御を組み合わせたその場(in-situ)PXRD測定を行えば、「どの条件で相転移が起きるのか」をリアルタイムに観察でき、工程設計・保存安定性・包装条件の最適化に役立ちます。

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まとめ:PXRDはプレフォーミュレーションの“目”

PXRDは、単に結晶を測る装置ではなく、材料の本質を見抜くための目です。
解析は難しいと思われがちですが、原理を理解し、適切な測定・解析を行えば、見えない構造の裏にある物性の理由が明らかになります。

  • 多形スクリーニング:安定形選定と特許対応
  • 結晶化度評価:溶解性や安定性の予測
  • 安定性試験:長期品質保証の科学的根拠

筆者の経験から、試料調製・解析手法の理解・データ解釈の3つが揃えば、PXRDは「難しい分析」ではなく、開発を成功に導く強力なパートナーになります。

 

 

わたしはXRD分析を中心に、依頼分析から顧客サポート、開発製品の検証まで幅広い業務に携わってきました。医薬品に関する知識を基礎から徹底的に学び、今も日々試行錯誤の連続です。専門家としてだけでなく、同じ”実験で悩む立場”として、読者の皆様に寄り添える情報を発信していけたらと思います。