コーティングの厚さを測定する方法とは? X線CTによる均一性評価
12 22, 2025
良薬は口に苦し— 現代でも上司の忠告は苦いものですが、薬のほうはどうでしょうか。 薬をコーティングする技術の進歩により、私たちが薬の苦味を感じることはほとんどなくなったように思います。 このコーティングの厚さは溶出挙動や安定性に大きく影響するため、製剤設計や品質管理においてその均一性評価が重要です。 しかし、コーティングの厚さの測定は意外と難しく、従来の手法には限界がありました。そこで注目されているのが、X線CTによる非破壊·3次元分析です。 今回は、X線CTによるコーティングの厚さの評価方法についてご説明します。
1. コーティングの厚さが製剤に与える影響とは?
医薬品製剤のコーティングは外観の美しさを保つだけでなく、機能性や安定性を左右する重要な要素です。コーティングには、苦味成分の漏出防止、湿気や光から有効成分を保護する役割があります。そしてコーティングの厚さは薬剤の溶出速度に影響し、ばらつきがあると薬効発現のタイミングが不安定になります。こうした理由から、製剤設計から品質保証まで一貫して、コーティングの厚さの精密な管理が求められます。
2. 従来の測定方法とその課題
コーティングの一般的な評価法は顕微鏡やSEMによる断面観察ですが、破壊的な手法であるため、サンプルが失われます。また、長さの測定は切断部位に対して行われるため局所的となり、全体の均一性は把握しにくい手法と言えます。一方で、コーティング処理前後の重量差から厚さを推定する方法もありますが、部位による厚さの違いは把握できません。これらの方法の前処理は煩雑であり、結果のクオリティが測定者の技術に依存します。このような課題を解決する手法として、X線CTが注目されています。X線CTでは製剤を丸ごと撮影でき、部位による厚さの違いも把握できます。
3. X線CTによる厚さ測定の原理
以前のブログ「製剤の中身が見える?非破壊分析の可能性とは」でもご紹介した通り、 X線CTは3次元構造を非破壊で可視化します。X線CTによるコーティングの厚さの評価は、以下のような解析手順で進められます。数値解析はソフトウェアにより自動化できます。
①X線CT撮影
錠剤や粒子をCT撮影しCTボリュームデータを得ます。異なる密度の物質は異なる輝度(画像の明るさ)で描画されるため、コーティングと内側の成分の密度が異なれば、数µmの精度でコーティングが描画されます。
②解析領域の指定
図1のように、解析領域を指定します。この例では、輝度の違いに基づき、空気·コーティング·内側の成分の境界線を引き、コーティング領域を解析領域に指定しました。

図1:解析領域の指定(断層画像)
③厚さの数値化と色分け
図2のように解析領域の厚さが算出され、厚さの違いが色分けされます。計算は3次元的に行われます。

図2:錠剤コーティングの厚さ解析結果(断層画像)
図3のように厚さを色分けして試料の立体画像に投影することで、試料の形状と厚さの関係がわかりやすくなります。

図3:錠剤コーティングの厚さ解析結果(立体画像)
④厚さの統計解析
厚さをヒストグラム化することで分布を把握できます。ヒストグラムの例については、「4. 均一性評価の事例紹介」でご紹介します。
以上のようにX線CTを使用するとで、製剤を丸ごと撮影しコーティングの状態を把握することができます。
4. 均一性評価の事例紹介
複数の顆粒を対象に、X線CTでコーティングの厚さを解析した事例をご紹介します。図4は、粒子表面のコーティングを先述の「3. X線CTによる厚さ測定の原理」でご紹介した手順で解析した結果です。緑色の領域の厚さは約20 µmありますが、青色の領域の厚さはその半分程度です。赤丸で示した粒子は半球状の形状をしており、コーティングの一部が欠けていることもわかります。

図4:粒子コーティングの厚さ解析結果(立体画像)
図5には、コーティングの厚さのヒストグラムを示しました。厚さの平均は18 µmですが、実際には10〜35 µmの範囲でばらつきがあることがわかります。

図5:粒子コーティングの厚さ解析結果(ヒストグラム)
5. 製剤設計·品質管理への応用ポイント
X線CTによるコーティング評価には以下のような特長があります。
経験不要:断面観察や重量作法と比較して複雑な前処理が不要です。
非破壊分析:試料をそのまま測定できるため、溶出試験や安定性試験と組み合わせた評価が可能です。
高精度な3次元解析:コーティング全体の評価でありながら、局所的な厚さの変化も把握できます。
このような特長により、X線CTは、製剤設計段階でのコーティング条件の最適化、試作·スケールアップ時の構造の再現性確認、品質管理·出荷検査における均一性チェックなどに利用できます。
6. まとめ:非破壊で得られる構造情報
コーティングの厚さは、製剤の性能と品質を左右する重要な要素です。従来の分析法には限界がありますが、X線CTを用いればより簡単に、非破壊·高精度·3次元的にコーティングを分析できます。特に、薬が効く速度や苦味マスキングといった患者の感覚に直結する要素に科学的にアプローチできる点からも、今後の製剤評価に対するX線CTの貢献が期待されます。構造と物性には相関があり、X線CTならばその構造を直接観察することができます。コーティングの測定に悩まれましたら、ぜひX線CTをご検討ください。