日本薬局方に見る分析機器の進化と、製薬現場で求められる技術は?

10 21, 2025

日本薬局方に見る分析機器の進化

日本薬局方とは何か?なぜ分析機器が掲載されているのか?

分析業界に転職して以来、製薬業界での経験を分析機器での営業にどのように活かせるかに強い関心を持ってきました。

しかし最近になって、日本薬局方が機器分析にどのように関わっているのかを理解しなければ、真に意味のある提案にはつながらず、自分よがりな視点に陥ってしまうのではないかと感じるようになりました。

そこで今回は、第1回目のテーマとして「日本薬局方」について調べ、学んだことをまとめてみたいと思います。

 

技術の進化がもたらす変化:官能検査からラマン分光法へ ―

ここで、日本薬局方の歴史を振り返えってみたいと思います。私は携帯型ラマン分光計を担当していますので、携帯型ラマン分光計が初めて日本薬局方に掲載された2019年6月第17改正日本薬局方 第2追補の前は、どのような分析手法が定められていたのでしょうか。調べてみました。

初期には天秤や融点測定器、比重計といったシンプルな器具が中心でした。加えて、「官能検査」が原材料や製品の品質を確認する、基本的な方法として広く用いられていました。当時、品質管理に関わっておられた方は、患者様のために、まさに全身全霊、五感すべてを研ぎ澄ませて製品の品質管理に向き合っていたのだろうと思います。

同時に、官能検査には、検査者の経験や体調によって結果が左右される「属人性」、再現性の低さ、記録の曖昧さなどが起こり得るため、これらは、医薬品の品質保証においては大きなリスクとなり得ます。

そこで登場したのが、ラマン分光法です。ラマン分光法は、物質にレーザー光を当てて散乱光を測定し、その分子構造や成分を特定する分析技術です。非破壊で迅速、しかも高精度に原材料を識別できるため、近年では日本薬局方にも正式に掲載され、製薬現場での活用が急速に進んでいます。

 

日本薬局方には未掲載だが、欧米薬局方に掲載されている分析機器

欧米薬局方では日本薬局方には未掲載の技術も導入されており、グローバルな品質保証の観点からも、今後の技術選定において参考になるかと思い調べてみました。

・エンドトキシン試験(Recombinant Reagents)

→ USPでは〈86〉章として新設。リコンビナント試薬を用いたエンドトキシン試験法。

抽出元素試験(Extractable Elements)

→ EPではプラスチック材料からの元素抽出試験(2.4.35)が新設。

・MAT法(Monocyte Activation Test)

→ EPでは発熱性物質検出法として、エンドトキシン試験に加えてMAT法(2.6.30)も記載。

 

日本薬局方におけるエネルギー分散型蛍光X線分析法(EDX)

厚生労働省(PMDA)サイト内に、「蛍光X線分析法〈G1-10-191〉」という記載が確認できます。 蛍光X線分析法の中でも、EDXは、ICP-MSやICP-AESといった湿式分析法に比べて、前処理が不要で迅速かつ非破壊で測定可能という利点があり、欧米薬局方で製薬現場でのスクリーニングや受入検査として認められている分析手法です。日本薬局方においてEDXは第十八改正日本薬局方第二追補時点において検討事案の分析手法とし挙がっています。

USP <735> X-Ray Fluorescence Spectrometry

EP 2.2.37 X-Ray Fluorescence Spectrometry

 

製薬現場で求められる“これから”の分析技術とは?

日本薬局方に掲載される分析機器の変遷は、単なる技術の進化ではなく、製薬現場のニーズの変化を映し出しています。スピード、正確性、非破壊性、安全性――これらの要素を満たす分析技術が、今後ますます求められていくでしょう。

当社は、X線回折(XRD)、熱分析、X線イメージング、ラマン分光など、薬局方にも掲載されている信頼性の高い技術を通じて、製薬業界の課題解決に貢献しています。

次回以降のブログでは、それぞれの担当者が製薬企業の方々に寄り添ったブログを発信します。感想やご意見がありました何なりと連絡いただきたく存じます。

 

参考資料 第十八改正日本薬局方に掲載されている主な分析機器(抜粋)

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製薬会社で10年勤務し、MR、経営企画課、生産部原材料購買課などを経験してきました。分析畑出身ではありませんが、分析機器の魅力に惹かれてリガクに転職しました。製薬企業の皆様に寄り添った視点で、現場で役立つ情報をお届けできればと思っています。