医薬品の乾燥減量試験を効率化する熱重量測定
2026年10月30日
医薬品の原薬や添加剤、造粒品を扱っていると、乾燥減量が問題になる場面はよくあります。
たとえば、
- 「乾燥減量試験に時間がかかる」
- 「乾燥条件を変えたときの挙動を早く見たい」
- 「カールフィッシャー法で水分を測る前に、まず乾燥の傾向を知りたい」
- 「温度を上げたとき、どのタイミングで重量が減るのか見たい」
このようなときに役立つのが、熱重量測定(Thermogravimetry, TG)です。
TGは、試料を加熱しながら重量の変化を連続的に測定する方法です。簡単に言うと、「試料を加熱しながら、何℃でどれだけ軽くなるかを見る分析」です。
日本薬局方では、乾燥減量試験は、乾燥によって失われる医薬品中の水分、結晶水の全部または一部、揮発性物質などの量を測定するものとしています。この試験は、乾燥減量試験法または熱分析法の熱重量測定法によって行われます。
TGを使うメリットとは?
従来の乾燥減量試験では、試料を乾燥器に入れ、一定温度で一定時間乾燥し、乾燥前後の重量差から減量を求めます。この方法はシンプルで分かりやすい一方で、「測定に時間がかかる」、「何℃付近で重量が減ったのか分からない」といった課題があります。
TGでは、数mg程度の試料を用いて、温度や時間に対する重量変化を連続的に記録できます。そのため、乾燥減量試験そのものを短時間で置き換えるだけでなく、乾燥条件のシミュレーションにも使えます。
乾燥減量や水分評価の話になると、よく比較されるのがカールフィッシャー法です。カールフィッシャー法は、水分を選択的に測定できる優れた方法です。水分量を正確に知りたい場合には非常に有効です。一方で、TGにはカールフィッシャー法とは違うメリットがあります。目的に合わせて使い分けることが重要です。
| TG | カールフィッシャー法 | |
| 主にわかること | 加熱による重量変化 | 水分量 |
| 結果の見え方 | 温度・時間に対する曲線 | 水分量の数値 |
| 試薬 | 不要 | 専用試薬が必要 |
| 試料の溶解 | 不要 | 溶解性、反応性を考える必要あり |
| 得意な用途 | 乾燥挙動、揮発挙動、乾燥条件検討 | 水分の定量 |
このようにTGは、水分を選択的に測る方法ではありません。しかし、乾燥によって何℃でどれだけ重量が減るかを確認できるため、乾燥減量試験の効率化や、条件検討の入口として非常に使いやすい方法です。
分析事例:ステアリン酸マグネシウムの乾燥減量
ここからは、医薬品添加剤であるステアリン酸マグネシウムを例に、TGで乾燥減量をどのように見られるかを紹介します。ステアリン酸マグネシウムは、錠剤やカプセル剤で滑沢剤としてよく使われる添加剤です。医薬品製剤では非常になじみのある材料なので、TGによる乾燥減量の説明にも適しています。
ここではステアリン酸マグネシウムについて、複数の温度プログラムで乾燥減量を比較しました。
図1 ステアリン酸マグネシウムの乾燥減量:温度プログラムによる重量変化の比較
ステアリン酸マグネシウムを10 mg、アルミニウムの開放容器に導入し、窒素雰囲気下で測定しました。図1では黒、赤、青線の3つの温度プログラム条件が示されています。
- 黒:10 ℃/minの等速昇温
- 赤:10 ℃/minの昇温後、105 ℃保持
- 青:10 ℃/minの昇温後、80 ℃保持
いずれの条件でも、最終的な重量減少はおよそ3.3 %付近に収束しています。10 ℃/minの等速昇温では、どの温度域で重量減少が起こるかを短時間で把握できます。一方、105 ℃、80 ℃保持では乾燥条件をシミュレーションすることが可能です。
80 ℃保持では105 ℃保持よりも重量減少がゆっくり進んでいます。しかし、時間をかけることで、最終的には105 ℃保持や等速昇温と近い減量に到達しています。この結果から、低い温度でも乾燥は進行するものの、十分な減量に到達するにはより長い時間が必要であることがわかります。
この情報は、熱に弱い原薬や添加剤、製剤を扱うときに役立ちます。たとえば、105 ℃では分解や結晶形変化が心配な試料では、80 ℃保持のような低温条件を検討したい場合があります。TGを使えば、低温でどれくらい時間をかければ十分に重量が安定するかを確認できます。これは、乾燥条件の設計にとても有効です。
必要に応じて他の分析法と組み合わせる
TGで見えるのは重量減少です。そのため、減ったものが水なのか、残留溶媒なのか、分解生成物なのかを判断するには、必要に応じて以下のような他の分析法と組み合わせます。
- 水分量を正確に知りたい:カールフィッシャー法
- 残留溶媒を詳細に分析したい:GC、GC-MS
- 熱変化(吸熱・発熱反応)を見たい:DSC、TG-DTAもしくはTG-DSC
- 発生ガス(水、残留溶媒)を同時に確認したい:TG-MS、TG-FTIR
- 結晶形変化を見たい:XRD
まとめ:TGを乾燥減量試験に使うメリット
TGを使うメリットをまとめると、次のようになります。
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少量試料で測定できる
TGでは、数mg程度の試料で測定できます。開発初期で試料量が限られている場合にも使いやすい方法です。
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試薬を使わない
カールフィッシャー法のような専用試薬を使わずに測定できます。試薬管理や廃液処理の負担が少ない点は、初期検討では大きなメリットです。
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温度ごとの重量変化が見える
乾燥器を使う従来の乾燥減量試験では、乾燥前後の重量差はわかりますが、途中の変化は見えにくいです。TGでは、温度や時間に対する重量変化を曲線で確認できます。
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乾燥条件をシミュレーションできる
等速昇温、105 ℃保持、80 ℃保持など、さまざまな温度プログラムを組めます。そのため、乾燥器で長時間の条件検討を行う前に、どの条件が有望かを見極めることができます。
以上のようにTGを使うと、医薬品の乾燥減量を単なる「乾燥前後の重量差」ではなく、温度と時間に対する挙動として理解できます。乾燥減量試験を効率化したいとき、あるいは乾燥条件を検討したいときには、まずTGで温度プログラムを変えながら測定してみる。それだけでも、乾燥挙動に関する理解を大きく深めることができます。