粉末X線回折法 基礎講座 第2回 質の高いデータを取得するための装置構成の選択
大森 雅志
51巻2号通巻114号(2020年10月) , 18-25
高精度な解析を行うためには、高品質なXRDデータを取得することが不可欠です。高品質なデータには、高強度、高分解能、高いピーク/バックグラウンド(P/B)比、そして高いシグナル/ノイズ(S/N)比が求められます。ただし、どの性能を優先すべきかは解析の目的によって異なるため、まず評価したい内容を明確にしたうえで測定条件を検討する必要があります。
また、試料の種類と光学系の組み合わせによっては、期待する測定性能が得られない場合もあります。そのため、測定目的だけでなく、試料の特性に適した光学系や装置構成を選択することが重要です。
本記事では、高品質な粉末XRDデータを取得するための装置構成の選び方について解説します。X線源、光学系、入射・受光スリット、検出器など、それぞれの構成要素が測定結果に与える影響と、最適な設定の考え方を紹介します。
主なポイント
- 高品質な粉末XRDデータを取得するためには、単に回折強度を高めるだけでは不十分です。強度、分解能、ピーク/バックグラウンド(P/B)比、シグナル/ノイズ(S/N)比のどれを重視するかは解析目的によって異なるため、目的に応じた測定条件の選択が重要です。
- X線源の選択は測定効率に大きく影響します。例えば回転対陰極型X線源は封入型X線源と比べて高いX線強度を得ることができ、測定時間の短縮に有効です。
- ターゲット材によってX線波長が決まるため、試料組成や分析目的に適したX線源を選択することが重要です。適切な選択により、蛍光X線の影響を抑え、より良好な測定結果を得ることができます。
- 光学系の選択は測定結果を左右する重要な要素です。ブラッグブレンターノ法は高強度かつ高分解能な測定に適していますが、表面が平坦でない試料や配向性の強い試料、薄膜試料では平行ビーム法や透過法が有効な場合があります。
- スリット、ミラー、フィルター、モノクロメーター、検出器設定などの各要素は、バックグラウンドレベルやピーク形状、測定強度に大きく影響します。これらを適切に組み合わせることで、小さなピークや近接したピークも高い精度で検出することが可能になります。
まとめ
本稿では、高品質な粉末X線回折(XRD)データを取得するための装置構成の選び方について解説しています。「高品質なデータ」の意味は解析の目的によって異なり、高い回折強度、高分解能、高いピーク/バックグラウンド(P/B)比、高いシグナル/ノイズ(S/N)比など、重視すべき項目は用途によって変わります。そのため、まず分析目的を明確にし、それに適した測定条件や装置構成を選択することが重要です。
まず、X線源の選択はデータ品質と測定効率に大きく影響します。回転対陰極型X線源は封入型X線源と比較して高いX線強度を得ることができ、測定時間の短縮に有効です。また、ターゲット材はX線の波長を決定するため、試料組成や分析目的に応じて適切に選択する必要があります。多くの場合はCuターゲットが使用されますが、蛍光X線の影響を抑える必要がある場合には、Co、Fe、Mo、Agなどのターゲットが有効となることがあります。
次に、試料や測定目的に応じた光学系の選択が重要です。粉末試料やバルク試料の測定には一般に反射法が用いられますが、強い配向性を示す試料やフィルム状試料では透過法が適している場合があります。また、ブラッグブレンターノ法、平行ビーム法、集光ビーム法にはそれぞれ特長があり、強度、分解能、適用範囲、バックグラウンド特性の間で異なるバランスを持っています。
さらに、スリット設定や各種光学部品も測定結果に大きな影響を与えます。スリット幅を小さくすると分解能の向上や不要な影響の低減が期待できますが、その一方で回折強度が低下し、測定時間が長くなる場合があります。また、フィルター、モノクロメーター、ミラーなどの光学部品は、Kβ線や蛍光X線など不要な成分を除去し、バックグラウンドの低減やピーク形状の改善に寄与します。
検出器の設定も重要な要素です。例えば、蛍光X線を抑制するエネルギーモードを利用することで、試料によってはピーク/バックグラウンド比を大幅に改善できますが、一方で回折強度が低下する場合もあります。
よくある質問
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試料ホルダーは単なる容器ではなく、測定結果に直接影響を与える光学系の一部です。そのため、試料に適さないホルダーを使用すると、バックグラウンドの増加やホルダー由来の回折ピークの発生、さらにはピーク強度比の変化を引き起こすことがあります。これらは相同定や定量分析の精度を低下させ、誤った解析結果につながる可能性があります。適切な試料ホルダーを選択するためには、試料の組成、X線吸収特性、物理的形態(粉末、バルク、薄膜など)、さらに空気や湿気に対する感受性を考慮する必要があります。
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炭素や多くの有機材料はX線の吸収が小さいため、X線が試料を透過して試料ホルダーに到達し、ホルダー由来の散乱が測定データに現れることがあります。例えば、ガラスホルダーを使用した場合、2θ = 20~30°付近にブロードなハローが観測されることがあります。このような試料にはゼロバックグラウンドホルダーの使用が推奨されます。ホルダー由来の散乱を最小限に抑え、微弱な回折ピークの検出にも有利です。
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多くの粉末XRD測定では、粒子径がおよそ10 μm程度になるよう調製することが実用的な目安とされています。粒子が大きすぎる場合、照射される結晶粒の数が不足し、回折リングや回折円錐の一部だけが強く回折するため、ピーク強度が不安定になります。その結果、回折パターンが統計的に偏り、測定されるピーク強度比の信頼性が低下することがあります。一方で、粒子を細かくしすぎることにも注意が必要です。特に粒径が約3 μm以下になると、結晶子径の減少や粉砕によって導入されたひずみの影響により、回折ピークが広がり、ピーク頂点の強度が低下する場合があります。このため、多くの材料では、十分な粒子統計と良好なピーク形状の両方を確保できる粒径として、約10 μmが実用的な目安となります。
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優先配向を低減する有効な方法の一つは、キャピラリーやフィルムを用いた透過測定です。これらの試料調製法では、一般的な反射測定用のプレス成形試料に比べて加わる圧力が小さいため、粒子の配向が生じにくくなります。また、測定中に試料を回転させることで、優先配向や粗大粒子による影響を平均化し、より代表性の高い回折データを得ることができます。反射測定では、リング型ホルダーを用いたバックローディング法も有効です。この方法では試料表面を押し固めて平滑化しないため、粒子の配向を抑制でき、ピーク強度比の再現性向上にもつながります。
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試料高さのずれ(偏心)は、XRD測定において最もよく見られる誤差要因の一つです。反射法では、試料表面がゴニオメーターの回転中心上に位置していることが重要です。試料位置が回転中心より低いと回折ピークは低角側へ、高いと高角側へシフトします。このピークシフトは低角領域で特に大きく、ゴニオメーター半径が小さいほど影響は大きくなります。
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測定範囲を決める際は、まず予備スキャンを行って試料の回折ピーク分布を確認することを推奨します。実際のピークを見逃さないため、測定範囲の下限は最も低角の回折ピークよりも少し低い角度に設定するのが一般的です。また、多くの材料では高角側まで測定範囲を広げることで、解析に利用できるピーク数が増え、結果の信頼性が向上します。一般的な目安として、有機材料では2θ ≈ 60°程度、無機材料では2θ ≈ 90°程度まで測定すると良好な結果が得られることがよくあります。
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ステップサイズと走査速度は、測定時間とデータ品質のバランスを決める重要なパラメータです。ステップサイズは、回折ピークの形状を正確に記録できる程度に十分小さく設定する必要がありますが、過度に小さくすると各ステップで得られる計数値が減少し、ノイズの影響が大きくなります。一般的には、最もシャープなピークの半値幅(FWHM)の約1/7~1/10を目安とします。走査速度については、定性分析であれば主要ピークが約3,000カウント以上、定量分析であれば約10,000~20,000カウント以上となるよう調整することが推奨されます。測定時間を長くして統計精度を向上させることで、微弱なピークの検出能力も高まります。
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空気や水分に敏感な材料は、通常、不活性ガス雰囲気下のグローブボックス内で試料調製を行い、気密ホルダーに封入した状態で測定します。これにより、測定中の酸化や吸湿を防ぐことができます。気密ホルダーにはさまざまな種類があります。ナイフエッジを備えたホルダーは、低角領域での散乱を抑制し、バックグラウンドを低減できるという利点があります。一方で、高角領域では窓材やホルダー構造の影響により、2θ ≈ 60°以上で回折強度が低下する場合があります。そのため、測定対象や必要な測定範囲に応じて、適切な気密ホルダーを選択することが重要です。
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