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粉末X線回折法 基礎講座 第3回 質の高いデータを取得するための試料調製およびスキャン条件

大森 雅志

52巻1号通巻115号(2021年4月) , 12-16

粉末X線回折(PXRD)基礎講座の第2回では、高品質なデータを取得するための装置構成の選択方法について解説しました。第3回となる本稿では、高品質なデータを得るための試料調製方法および最適な測定条件の決定方法について説明します。試料調製においては、試料ホルダーの種類、試料粒径の影響、さらには試料表面の高さずれ(偏心)や凹凸が測定結果に与える影響を考慮する必要があります。

多くのPXRD測定では、通常ガラス製の試料ホルダーに試料を充填して測定を行います。しかし、試料の化学的性質、組成、形状によっては、より適切な試料ホルダーを選択することで、高分解能かつ低バックグラウンドの高品質なデータを得ることが可能になります。また、場合によっては配向(優先配向)の影響を抑制できることもあります。さらに、選択した試料ホルダーに適した光学系を使用することも重要です。

以下の章では、試料調製および測定条件の詳細について、実践的なコツや陥りやすい注意点を交えながら解説します。

主なポイント

  • サンプルホルダーの選択は重要です。 ホルダーによってバックグラウンドの大きさ、不要なピークの発生、ピーク強度比の変化が起こり、相同定や定量分析の精度に影響を与えることがあります。
  • 炭素材料や多くの有機物のような低吸収試料では、 浅型ホルダーや無反射試料板を使用することで、X線透過によるピーク形状の歪みやホルダー由来の散乱を低減できます。
  • 粉末粒径の管理も重要です。 粒子が粗すぎると強度のばらつきや優先配向の影響が大きくなります。一方で、過度に粉砕するとピークがブロード化し、ピーク強度が低下します。一般的には約10 µm程度の粒径が実用的な目安とされています。
  • ブラッグ・ブレンターノ法では試料面の高さ合わせが極めて重要です。 試料の偏心(高さずれ)はピーク位置のずれを引き起こし、特に低角度側でその影響が顕著になります。そのため、試料表面の平坦性と正確な高さ調整が必要です。
  • 最適な測定条件を決めるには予備スキャンが有効です。 高速なスクリーニング測定を行うことで、適切な測定範囲・ステップ幅・スキャン速度を設定でき、十分な計数統計を確保できます。

まとめ

高品質な粉末X線回折(XRD)データを取得するためには、装置性能だけでなく、適切な試料調製も重要です。試料ホルダーは試料の特性に応じて選択する必要があります。不適切なホルダーを使用すると、バックグラウンドの増加や不要な回折ピークの発生、さらには強度比の変化を招き、相同定や定量分析の精度に影響を与える可能性があります。特に炭素材料や多くの有機物のような低吸収試料では、無反射試料板の使用が有効です。また、粗大粒子や強い優先配向を示す試料では、透過法や試料回転を活用することで、その影響を低減できる場合があります。空気や水分に敏感な材料については、不活性雰囲気下で充填した密閉ホルダーを使用することが不可欠です。

粒子径も測定品質に大きく影響します。粒子が粗すぎると、回折に寄与する結晶子数が不足し、ピーク強度が本来の値からずれることがあります。一方で、過度の粉砕によって粒子が細かくなりすぎると、結晶子サイズの減少や加工ひずみによりピークがブロード化し、ピーク強度が低下する場合があります。そのため、一般的には均一で適度に細かい粉末状態に調製することが望まれます。

試料表面の状態も重要な要素です。反射法測定では、試料表面を平坦にし、正しい高さに設置する必要があります。試料面が基準位置より高すぎたり低すぎたりすると、回折ピーク位置がずれ、正しい結晶相であっても異なるパターンとして観測される可能性があります。

測定条件を決定する際には、まず高速な予備スキャンを実施するのが有効です。予備スキャンの結果をもとに、最終的な2θ測定範囲、ステップサイズ、およびスキャン速度を設定します。ステップサイズは回折ピークの形状を十分に再現できるように設定し、スキャン速度は弱いピークも明瞭に検出できるだけの計数統計が得られるよう調整することが重要です。

よくある質問

試料ホルダーは単なる容器ではなく、測定結果に直接影響を与える光学系の一部です。そのため、試料に適さないホルダーを使用すると、バックグラウンドの増加やホルダー由来の回折ピークの発生、さらにはピーク強度比の変化を引き起こすことがあります。これらは相同定や定量分析の精度を低下させ、誤った解析結果につながる可能性があります。適切な試料ホルダーを選択するためには、試料の組成、X線吸収特性、物理的形態(粉末、バルク、薄膜など)、さらに空気や湿気に対する感受性を考慮する必要があります。

炭素や多くの有機材料はX線の吸収が小さいため、X線が試料を透過して試料ホルダーに到達し、ホルダー由来の散乱が測定データに現れることがあります。例えば、ガラスホルダーを使用した場合、2θ = 20~30°付近にブロードなハローが観測されることがあります。このような試料にはゼロバックグラウンドホルダーの使用が推奨されます。ホルダー由来の散乱を最小限に抑え、微弱な回折ピークの検出にも有利です。

多くの粉末XRD測定では、粒子径がおよそ10 μm程度になるよう調製することが実用的な目安とされています。粒子が大きすぎる場合、照射される結晶粒の数が不足し、回折リングや回折円錐の一部だけが強く回折するため、ピーク強度が不安定になります。その結果、回折パターンが統計的に偏り、測定されるピーク強度比の信頼性が低下することがあります。一方で、粒子を細かくしすぎることにも注意が必要です。特に粒径が約3 μm以下になると、結晶子径の減少や粉砕によって導入されたひずみの影響により、回折ピークが広がり、ピーク頂点の強度が低下する場合があります。このため、多くの材料では、十分な粒子統計と良好なピーク形状の両方を確保できる粒径として、約10 μmが実用的な目安となります。

優先配向を低減する有効な方法の一つは、キャピラリーやフィルムを用いた透過測定です。これらの試料調製法では、一般的な反射測定用のプレス成形試料に比べて加わる圧力が小さいため、粒子の配向が生じにくくなります。また、測定中に試料を回転させることで、優先配向や粗大粒子による影響を平均化し、より代表性の高い回折データを得ることができます。反射測定では、リング型ホルダーを用いたバックローディング法も有効です。この方法では試料表面を押し固めて平滑化しないため、粒子の配向を抑制でき、ピーク強度比の再現性向上にもつながります。

試料高さのずれ(偏心)は、XRD測定において最もよく見られる誤差要因の一つです。反射法では、試料表面がゴニオメーターの回転中心上に位置していることが重要です。試料位置が回転中心より低いと回折ピークは低角側へ、高いと高角側へシフトします。このピークシフトは低角領域で特に大きく、ゴニオメーター半径が小さいほど影響は大きくなります。

測定範囲を決める際は、まず予備スキャンを行って試料の回折ピーク分布を確認することを推奨します。実際のピークを見逃さないため、測定範囲の下限は最も低角の回折ピークよりも少し低い角度に設定するのが一般的です。また、多くの材料では高角側まで測定範囲を広げることで、解析に利用できるピーク数が増え、結果の信頼性が向上します。一般的な目安として、有機材料では2θ ≈ 60°程度、無機材料では2θ ≈ 90°程度まで測定すると良好な結果が得られることがよくあります。

ステップサイズと走査速度は、測定時間とデータ品質のバランスを決める重要なパラメータです。ステップサイズは、回折ピークの形状を正確に記録できる程度に十分小さく設定する必要がありますが、過度に小さくすると各ステップで得られる計数値が減少し、ノイズの影響が大きくなります。一般的には、最もシャープなピークの半値幅(FWHM)の約1/7~1/10を目安とします。走査速度については、定性分析であれば主要ピークが約3,000カウント以上、定量分析であれば約10,000~20,000カウント以上となるよう調整することが推奨されます。測定時間を長くして統計精度を向上させることで、微弱なピークの検出能力も高まります。

空気や水分に敏感な材料は、通常、不活性ガス雰囲気下のグローブボックス内で試料調製を行い、気密ホルダーに封入した状態で測定します。これにより、測定中の酸化や吸湿を防ぐことができます。気密ホルダーにはさまざまな種類があります。ナイフエッジを備えたホルダーは、低角領域での散乱を抑制し、バックグラウンドを低減できるという利点があります。一方で、高角領域では窓材やホルダー構造の影響により、2θ ≈ 60°以上で回折強度が低下する場合があります。そのため、測定対象や必要な測定範囲に応じて、適切な気密ホルダーを選択することが重要です。

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