粉末X線回折法 基礎講座 第7回 格子定数
長尾 圭悟
55巻1号通巻121号 (2024年4月) , 18-23
粉末X線回折(PXRD)基礎講座の第7回では、格子定数(lattice constants)について解説します。格子定数は、X線回折法によるさまざまな解析において用いられる基本的なパラメータの一つです。
格子定数を求める方法には、主に次の3つがあります。
- 観測された1本の回折ピークのミラー指数と、ブラッグの法則から求めた面間隔(d値)を用いる簡易的な方法
- 複数の回折ピークとそれぞれのミラー指数を用いて最小二乗法で求める方法
- 広い回折パターン範囲を利用するWPPF(Whole Powder Pattern Fitting)法
②および③の方法では、角度標準試料を用いて回折角度の補正を行うことができます。角度補正には外部標準法と内部標準法があり、それぞれに長所と短所があります。また、WPPF法では角度標準試料を測定しなくても、ピークシフトモデル関数を用いることで角度補正を行うことが可能です。
さらに、温度制御装置を使用したin-situ測定にも対応できます。この方法では、試料温度を変化させながらリアルタイムで回折パターンを取得することができます。
固体酸化物形燃料電池(SOFC)材料の一つであるLSMO(ランタンストロンチウムマンガン酸化物)の高温測定では、a軸方向とc軸方向で格子膨張の挙動が異なることが明らかになりました。
主なポイント
- 格子定数は、単位格子の辺の長さと格子角を表す基本的な結晶構造パラメータです。 温度、圧力、組成、固溶量、酸化還元状態などの変化に敏感に応答するため、材料評価に広く利用されています。
- 格子定数の算出には主に3つの方法があります。 単一ピークを用いる簡易法、複数ピークを用いる最小二乗法、そして回折パターン全体を用いるWPPF法です。現在では、高い精度と信頼性を持つWPPF法が広く利用されています。
- 高精度な格子定数評価には高角度ピークが有利です。 高角度領域ではピーク位置の変化に対する感度が高くなるため、d値や格子定数をより正確に求めることができます。
- 角度校正は格子定数測定の精度を左右する重要な要素です。 外部標準法と内部標準法にはそれぞれ利点と欠点があります。また、WPPF法ではピークシフトモデルを用いて角度ずれを補正できるため、毎回標準試料を測定しなくても高精度な解析が可能です。
- In-situ XRDは格子定数の変化を追跡する強力な手法です。 LSMOの高温測定ではa軸とc軸で異なる熱膨張挙動が観測されました。また、Y(InₓMn₁₋ₓ)O₃では組成変化に伴って格子定数がほぼ直線的に変化し、ベガード則とよく一致することが確認されています。
要約
格子定数とは、結晶の繰り返し構造である単位格子の大きさと形状を表すパラメータです。XRDでは、回折ピークの位置から格子面間隔(d値)を求め、そこから格子定数を算出します。結晶系によって必要な格子パラメータの数は異なりますが、格子定数は結晶構造を特徴づける重要な指標となります。
格子定数を求める最も簡単な方法は、回折ピークにミラー指数を割り当て、ブラッグの法則から求めたd値を用いて計算する方法です。ただし、この方法は少数のピークに依存するため、ピークの重なりや位置決定誤差の影響を受けやすいという欠点があります。
より高い精度が必要な場合には、複数の回折ピークを用いた最小二乗法が利用されます。さらに、現在では回折パターン全体を解析するWPPF(Whole Powder Pattern Fitting)法が広く用いられています。WPPF法では、物理的に妥当なピーク形状モデルを用いて広い角度範囲のデータを解析するため、ピークが密集した複雑なパターンに対しても高精度な格子定数評価が可能です。
正確な格子定数を得るためには、回折角度の校正も重要です。校正には外部標準法や内部標準法が用いられるほか、WPPF法ではピークシフトモデルを利用して角度ずれを補正することもできます。
格子定数の評価は、材料の状態変化を調べる上で有効な手法です。例えば、BaTiO₃ではc/a比を高精度に評価できるほか、LSMOでは高温でa軸とc軸の熱膨張挙動が異なることが確認されています。また、Y(InₓMn₁₋ₓ)O₃では組成変化に伴って格子定数がほぼ直線的に変化し、ベガード則に従うことが示されています。
よくある質問
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格子定数とは、結晶の単位格子の大きさと形状を表すパラメータです。一般には、3つの辺の長さ(a、b、c)と3つの角度(α、β、γ)で表されます。XRDでは回折ピークの位置から格子定数を求めることができ、結晶構造や温度・組成の変化を評価するための重要な指標として利用されています。
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格子定数は、結晶構造を特徴づける基本的なパラメータであり、温度、圧力、組成、劣化などに伴う材料の変化を評価するための重要な指標です。XRDでは、回折ピーク位置から格子定数を求めることができます。格子間隔がわずかに変化するとピーク位置も変化するため、格子定数を調べることで、材料内部で生じている構造変化を高い感度で検出できます。例えば、熱膨張、固溶、相転移、応力やひずみの評価などに広く利用されています。
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高角度の回折ピークは、低角度のピークに比べて、わずかな角度誤差によるd値の誤差が小さくなります。そのため、格子定数をより高い精度で求めることができます。一般に、回折角が大きいほどピーク位置の変化に対する感度が高くなるため、格子定数のわずかな変化も検出しやすくなります。このため、高精度な格子定数測定では高角度ピークが重要な役割を果たします。
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面間隔とミラー指数の関係式を用いる方法は、1つの回折ピークとそのミラー指数から格子定数を求める最も簡便な方法です。一方、最小二乗法では複数の回折ピークを用いるため、より精度と信頼性の高い結果が得られます。WPPF(Whole Powder Pattern Fitting)法は、回折パターン全体をフィッティングして格子定数を求める手法です。ピークの重なりがある試料や複雑な回折パターンにも適用できるため、現在では最も広く利用されている高精度な解析手法の一つです。
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この方法は回折ピーク位置から格子定数を求めますが、実際の回折ピークは必ずしも完全に対称ではありません。軸発散(アンブレラ効果)や水平発散などの影響によって見かけのピーク位置がわずかにずれることがあり、その結果、求められるd値や格子定数にも誤差が生じます。また、ピークの重なりやピーク形状の非対称性も誤差要因となります。このため、単一ピークを用いる方法ではわずかな偏りが生じることがあり、より高精度な格子定数評価には、複数ピークを用いる最小二乗法や回折パターン全体を解析するWPPF法が有効です。
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角度校正とは、回折ピーク位置に生じる系統誤差を補正し、格子定数をより正確に求めるための処理です。校正は、標準試料を別途測定する外部標準法、試料に標準物質を混合する内部標準法、あるいはWPPF法のピークシフト補正モデルなどによって行うことができます。格子定数はピーク位置から算出されるため、わずかな角度誤差でも結果に影響を与えます。そのため、高品質な回折データであっても、適切な角度校正を行わなければ正確な格子定数は得られません。
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外部標準法では、認証標準試料を別途測定して角度校正を行います。試料に標準物質を混合する必要がなく、標準物質のピークが試料のピークに重ならないという利点があります。一方で、試料と標準試料の高さや吸収特性が異なる場合、校正誤差が生じることがあります。内部標準法では、標準物質を試料に混合して測定します。そのため、試料高さや吸収の影響を補正しやすく、より高精度な角度校正が可能です。ただし、試料調製の手間がかかるほか、標準物質を消費してしまうという欠点があります。
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格子定数は、材料内部で起こる構造変化を評価するための重要な指標です。例えば、BaTiO₃ではc/a比を高精度に評価でき、結晶構造のわずかな変化を検出できます。また、LSMOではa軸とc軸で熱膨張の程度が異なることが確認されており、熱膨張の異方性を評価できます。さらに、Y(InₓMn₁₋ₓ)O₃では組成の変化に伴って格子定数がほぼ直線的に変化し、ベガード則に従うことが示されています。このように、格子定数の評価は、温度変化や組成変化、固溶量の推定など、材料挙動の理解に役立ちます。
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