PDF解析
最近着目されつつあるPDF解析
一歩進んだ構造解析を取り入れてみませんか?
PDF解析に関する基礎知識
PDF(Pair Distribution Function)すなわち二体分布関数は、物質の結晶性に依らず原子間距離と配位数の情報を散乱パターンから引き出すことができます。
またRDF (Radial Distribution Function)として知られる動径分布関数のほうが馴染みのある人もいるかもしれませんが、基本的には縦軸の定義が違うだけで本質的には同じ解析になります。
PDF解析の解説に入る前に、下図に示す結晶質および非晶質のカーボンのX線散乱パターンを用いた測定例を見てみましょう† 。
(† 提供: 東京理科大学 駒場研究室 久保田先生 現在はNIMS 所属 詳細はこちら)
非晶質カーボンのX線散乱パターンは、結晶質カーボンの回折パターンに比較してブロードなピークが観測されます。 このピークの正体は、試料内(原子間結合レベルのミクロな視点)に様々な距離のC-C結合が存在し、各結合距離に対応した散乱X線が互いに干渉したため観測されています。
そのため、得られた散乱パターンをフーリエ変換することで、実空間の情報を直接求めることが可能になります。 得られた実空間の情報は、縦軸は配位数や存在確率、横軸は原子間距離 r で表すことができ、実際に縦軸にRDF(配位数)、横軸に原子間距離でプロットしたプロファイルと平面として考えたカーボンの構造モデルを下図に示します。
ピーク位置が平均原子間距離、ピーク面積が配位数に関係しています。カーボンの構造モデルを平面として考えると(実際には3次元空間の情報が導出されます)、それぞれのピーク位置から第1, 2, 3 ⋯ 隣接距離が求まります。 この性質を利用することで、非晶質系の短距離構造解析、結晶質系の局所構造の乱れ解析などに応用できるため、様々な分野での活躍が期待できる手法として期待されています。
次にもう少し具体的にPDFの算出方法を簡単に説明します。
詳しい式はリガクジャーナル1)や書籍などを参考にしてみてください。
PDFの算出方法のフローを示します。
①. プロファイル測定(全散乱測定)の実施
②. 構造因子 S(Q) の算出
③. S(Q) をフーリエ変換してPDFを算出
プロファイル測定の留意点は、全散乱測定の章に纏めました。
構造因子 S(Q) は下の式から算出されます。
\begin{equation} S(Q) = \frac{I_{\mathrm{coh}} - \langle f^{2} \rangle + \langle f \rangle^{2}}{\langle f \rangle^{2}} \nonumber \end{equation} \begin{eqnarray} \langle f \rangle &= \sum_{i}^{n} c_{i}f_{i} \nonumber \\ \langle f^{2} \rangle &= \sum_{i}^{n} c_{i}f_{i}^{2} \nonumber \end{eqnarray}
ここで、ci と fi は i 番目の元素の濃度と原子散乱因子、Icoh はX線全散乱測定データから抽出した試料構造由来の干渉性散乱強度です。 干渉性散乱を抽出するために、得られたプロファイルに各種補正を行います。具体的には、バックグラウンド補正・偏光補正・吸収補正・コンプトン散乱補正を経て、原子散乱因子で規格化します。
PDF G(r) は実測した構造因子 S(Q) をフーリエ変換から得ることができます。 SiO2ガラスを例に代表的な4つの関数の定義式2)と図を示します。 各図内の破線は系内の平均密度に関連しています。
還元2体分布関数
\begin{equation} G(r) = \frac{2}{\pi} \int^{Q_{\max}}_{Q_{\min}} {Q\{S(Q)-1\}\sin Qr} \,\mathrm{d}Q\nonumber \end{equation}
2体分布関数
\begin{equation} g(r) = \frac{1}{2\pi^2\rho_{0}r} \int^{Q_{\max}}_{Q_{\min}} {Q\{S(Q)-1\}\sin Qr} \,\mathrm{d}Q + 1\nonumber \end{equation}
動径分布関数
\begin{equation} R(r) = \frac{2r}{\pi} \int^{Q_{\max}}_{Q_{\min}} {Q\{S(Q)-1\}\sin Qr} \,\mathrm{d}Q + 4\pi r^2\rho_{0}\nonumber \end{equation}
全相関関数
\begin{equation} T(r) = \frac{2}{\pi} \int^{Q_{\max}}_{Q_{\min}} {Q\{S(Q)-1\}\sin Qr} \,\mathrm{d}Q + 4\pi r\rho_{0}\nonumber \end{equation}
PDF解析では g(r) や G(r) を使用することが多く、非晶質は g(r) 、結晶質はG(r) を使用することが多いです。またこれらは簡単に相互変換することが出来ます。
参考文献:
[1] Y.Shiramata and M.Yoshimoto, Rigaku Journal, 50(1), (2019) 1-8.
[2] D. A. Keen. J. Appl. Cryst., 34, (2001), 172. doi: 10.1107/S0021889800019993.