アプリケーションノート B-XRD1169
はじめに
高分子材料の研究において、その場(in-situ)観察や動作下(operando)測定は極めて重要です。特に、温度変化や力学的変形を伴って行うin-situ測定は、加熱・冷却・加工プロセスにおける環境を再現し、そのような条件下での高分子材料の構造変化をその場で追跡できる有効な手法であり、これまで多くの研究が放射光施設を用いて実施されてきました。広角X線回折(Wide-Angle X-ray Scattering; 以下 WAXS, ここではWide-Angle X-ray Diffraction; WAXDと同義)装置では、高輝度X線と高速・高分解能2次元検出器の組み合わせにより、従来は放射光施設でのみ可能と考えられていたin-situ測定を実験室で実現できます。本アプリケーションノートでは、高分子フィルムの温度を変化させながら、結晶化から融解に至る過程における構造変化を高速時分割で観察した例を紹介します。
測定・解析例
ポリエチレンテレフタラート(PET、polyethylene terephthalate)フィルムを温度制御ステージを用いて室温から330 ℃まで、昇温速度20 ℃/minで加熱しながら、透過配置で2次元回折像を1秒間隔で連続的に取得しました。取得した2次元回折データの一例を図1(a)に、これを円環平均処理して得られた1次元プロファイルを図1(b)に示します。
加熱過程では、約160 ℃付近でPETの結晶化に起因する回折ピークの出現・増大が観察され、さらに約300 ℃付近ではそれらのピークが消失し、結晶の融解過程が明瞭に確認されました(図1)。露光時間1秒という短時間で測定を行っても、結晶化過程における微細な構造変化を捉えることができています。高分子製品の加熱プロセス中の結晶状態を把握し、構造制御に役立てられることが分かります。また、高輝度X線と高速2次元検出器を組み合わせたWAXS測定により、結晶性高分子材料の相転移挙動を実験室レベルで測定可能であることが示されました。
図1: 温度制御下でのPETフィルムの結晶化および
融解過程の高速時分割 WAXS 測定結果
(a)2次元測定データ、(b)円環平均処理後の1次元プロファイル
まとめ
温度制御ステージと高性能なWAXS装置を組み合わせることで、PETフィルムにおける結晶化から融解に至る相転移挙動を、1秒オーダーの時間分解能でin-situ測定により評価できることを示しました。本手法は、高分子材料の加熱・冷却プロセスにおける結晶状態の把握や、構造制御指針の検討に有用であり、材料開発やプロセス最適化への応用が期待できます。
推奨装置・ソフトウェア
- 広角X線回折装置 DicifferX WAXS Edition + ハイブリッド・フォトン・カウンティングX線検出器 HyPix-6000
- Linkam 加熱ステージ HFSX350
- X線分析統合ソフトウェア SmartLab Studio II(Powder XRDプラグイン)