アプリケーションノート B-XRD1163
はじめに
一般的に、繊維の配向および構造評価は、1本ではX線回折強度が低いため、複数の繊維を束ねて測定します。しかし、この方法では束ねる過程で繊維の撚れや傾きが生じて正確な評価が難しくなることがあります。また、繊維によっては紡糸時に構造が均一に形成されておらず、部分的に結晶部と非晶質部分の割合が異なる場合や、非晶質のみの場合もあります。このような不均一性は束測定では平均化されるため、局所的な構造や繊維間のばらつきを適切に評価できない可能性があります。そのため、精密な評価を行うには単繊維での構造解析が望まれますが、従来のX線回折装置での測定は強度が十分に取れないなど評価が容易ではありませんでした。
高輝度X線源と高分解能2次元検出器を用いた広角X線回折(Wide-Angle X-ray Scattering; 以下 WAXS, ここではWide-Angle X-ray Diffraction; WAXDと同義)装置により、シルクや炭素繊維などの回折強度の低い試料でも、実験室系の装置で単繊維測定が可能になります。
測定・解析例
市販の天然シルクおよびカーボンファイバーの束から単繊維を取り出し、測定した結果を以下に示します。両試料とも顕微鏡を用いて単繊維を選別し、標準セルに貼り付けて固定した後、WAXS測定を実施しました。露光時間は 30分です。 天然シルク単繊維およびカーボンファイバー単繊維の測定結果(2次元パターンおよび1次元プロファイル)を示します。図1に示した2次元データでは、天然シルクにおいて低角側の強い回折ピーク(約2θ:20°付近)に加え、30°~40°付近の弱い回折ピークも確認できます。カーボンファイバーにおいても、20°付近の回折ピークに加え、40°付近の弱い回折ピークが観測されています。
続いて、図2に天然シルクの1次元プロファイル(2θ –強度および方位角(β)–強度)を示します。2θ –強度プロファイルでは回折ピークが明確に観測されており、ピーク位置から周期構造のサイズを評価できることがわかります。図2下段に、20°付近の回折ピークに対する方位角(β)強度プロファイルを示します。ピークの半値幅(FWHM)は18.9°であり、この値から算出した配向度は89.5%でした。 このように、高輝度・高強度のWAXS測定により、単繊維の構造評価や配向度の算出が可能です。
図1 繊維1本でのWAXS測定結果
天然シルク(左)、カーボンファイバー(右)
図2 天然シルクの1次元プロファイル
(2θ –強度(上)および方位角(β)–強度(下))
推奨装置・ソフトウェア
- 広角X線散乱装置 DicifferX WAXS Edition + ハイブリッドピクセル2次元検出器 HyPix-6000
- X線分析統合ソフトウェア SmartLab Studio II (Powder XRDプラグイン)