X線回折装置による耐火物結晶相の Rietveld 定量分析
要約
耐火物試料は機能性無機材料の一種であり、その用途により様々な組成のものが存在します。各結晶相の重量比を把握することは、研究開発、さらに品質管理の観点から重要です。また、使用済みの耐火物は、最終処分場に埋立処分されていますが、用地確保の観点から再利用が求められています。安全に再利用するために、耐火物試料の組成を把握する必要があります。
耐火物の組成分析法としては、従来では湿式法や、元素分析結果を形態別に換算した定量分析法が行われてきました。しかし、近年の試料は機能性拡張のために、同一元素で構成される結晶相が多数含まれる試料が多くなり、従来法では分析が困難になってきました。そこで、Rietveld解析により耐火物試料中の結晶相の定量分析を行いました。
装置
X線回折装置に高速1次元検出器D/teX Ultraを組み合わせることで、粉末試料の高速測定が可能です(図1)。試料の粒子が粗いと、回折に寄与する結晶粒の数が少なくなり、回折線がスポット状になるため、デバイ環が不連続になります(図2(a))。このデータを2θ-Iプロファイルに変換しても、一部の回折線が適切な強度比で変換されない可能性があります。そこで、試料を回転させて測定することで、試料粒度の影響を受けずに測定することが可能です(図2(b))。試料を回転させることで、一様なデバイ環が得られ、結晶粒が十分に細かい場合と同様の効果が得られます。耐火物試料は、その硬度が高いために、粉砕処理が難しい場合があります。そのような場合、回転処理は試料粒度の影響を受けずに測定できる有効な方法です。
図1 全自動多目的X線回折装置 SmartLab SE
図2 回転処理なし(a)・あり(b)におけるデバイ環の違い
試料
試料は耐火物試料の組成に似た模擬耐火物試料を作製して用いました。耐火物試料によく含まれている12種類の試薬をジルコニア製粉砕容器に入れ、150rpm、3分の条件で混合し、模擬耐火物試料を作製しました。各試薬は混合前に測定し、不純物の有無を確認しました。各試薬中に含まれていた不純物量を加味して、調製値としました。
管球の違いにおける分析結果の比較
X線回折装置では、その汎用性からCu管球が一般的に用いられています。しかし、試料にFeが多く含まれる場合、CuKαに対するFeの質量吸収係数が大きいために(CuKαに対するFeの質量吸収係数:302 cm2/g)、吸収効果により試料表層から数μm程度しかX線は侵入できません。また、試料内部から発生する回折X線も自己吸収されるため、検出器で計数されるX線強度は、本来、試料から発生する理論的なX線強度よりも著しく低い値を示します。さらに励起効果により Feの蛍光X線が発生することでバックグラウンドが上昇し、微小ピークが観測しづらくなります。
Fe含有量が多い試料の場合、Feに対するCoKαの質量吸収係数が57.2cm2/gと小さく、吸収・励起効果の影響が小さくなるため、Co管球による測定が有効です。実際に、管球による分析結果の違いを確認するために、Fe含有量が多い試料を調製し、Cu管球、Co管球により測定してRietveld定量分析を行いました。結果を表1に示します。Cu管球では、吸収効果により解析値と調製値に差がありました。特にIron(Fe)の解析値は、調製値に対して7mass%も小さい値を示しました。これに対してCo管球を用いた場合、全ての成分で解析値は調製値と良好に一致しました。このように、Fe含有量が多い試料のRietveld 定量分析に対しては、Co管球での測定が有効です。
表1 管球による分析結果の違い(1)
耐火物試料のRietveld定量分析
模擬耐火物試料をCo管球を用いて測定し、統合粉末X線解析ソフトウェアPDXLを用いてRietveld解析を行いました。結果を図3に示します。解析の尺度を表すRwpは4.63%、Sは1.77と小さい値が得られ、また測定データと計算データ間の誤差は小さくなりました。これより、Rietveld解析が良好に行えたことがわかりました。解析結果より得られた各結晶相の定量分析を行いました。結果を表2に示します。各結晶相の解析値と調製値は良好に一致しました。さらに、酸化アルミニウムを内標準物質とすることで、非晶質成分の含有量も解析できました。以上のように、耐火物試料の形態別分析法として、Rietveld解析法が有効な手法であることがわかりました。
図3 模擬耐火物試料のRietveld解析結果
表2 模擬耐火物試料の定量分析結果(1)
参考文献
- 大渕敦司,山田康治郎,朝倉秀夫,戸松一郎,村田守:耐火物 66(2014) 547-552.