X線回折装置による高分子の配向評価
はじめに
ポリプロピレン(PP)などのフィルム状ポリマーは、結晶方位とその配向性が特性に影響するため、それらの評価が重要になってきます。ポリマーは軽元素で構成されていることからX線が透過しやすいため、透過法での測定が有効です。本レポートでは、α-βアタッチメント(多目的アタッチメント)を用いて、結晶方位・配向性評価を行いました。また、本レポートで紹介するポリマー試料用に特化した延伸機能付き繊維試料ホルダーではフィルムの断面にX線を入射させることも可能です。
測定・解析例
測定はSmartLabにα-βアタッチメントを搭載して行いました(図1)。図2にPPフィルムのスルー入射時、図3にエッジ・エンド入射時の繊維試料ホルダーを示します。延伸機構が付いているので、配向性が変わらない程度のテンションを掛け、複数枚の試料を重ねても弛みを抑えて取り付けることが可能です。
図4にPPの結晶構造を、図5にエッジ入射による2θ/θプロファイルを示します。α-βアタッチメントのβ軸を移動させ、回折に寄与する格子面法線がND(Normal Direction:試料面の法線方向)に平行な場合と、MD(Machine Direction:樹脂の流れ方向)に平行な場合で測定しました。回折に寄与する格子面法線がNDと平行な状態で測定したプロファイルでは、(110)、(040)、(130)など(hk0)の格子面が観測されているのに対し、格子面法線がMDと平行な状態で測定したプロファイルでは(004)が観測されています。このことから、このPPフィルムの結晶方位は、c軸がMDと平行で、a、b軸はランダムである1軸配向であると推測されます。このように、2θ/θ配置で測定することにより、(004)のように、ND、MD、TD方向(Traverse Direction:試料の幅方向)に対してほぼ対称な位置にある結晶面からの回折を観測できます。
図6にスルー入射、エッジ入射、エンド入射時のΦ(β)スキャンプロファイルを示します。このΦスキャンプロファイルからは主に配向の強さ(配向性)を評価できます。PPの結晶系は単斜晶であり、MD方向と(004)の格子面法線は平行でないために(図4)、004のΦスキャンのピークはスプリットしています。また、エンド入射のプロファイルは、各Φで強度が一様ではなく分布があるため、完全な1軸配向ではないことが分かります。
図7に繊維配向度と配向度関数の算出結果を示します。配向度は上記の式のように検出されたピークの幅から算出します。さらに、Φスキャンプロファイルから算出する配向度関数は、1軸延伸状態の試料に対して適用可能で、PP(110)と(040)のΦスキャンプロファイルから簡易的に算出され、PPのa、b、c軸がMDに対しどの程度多く向いているかを表しており、-0.5から1の範囲の値で算出されます。また、値が1に近い程、その軸がMDに多く向いていることを表しています。上記の結果から、c軸がMDに多く向いていることが分かります。
図8はアルミ打ち抜き試料板にPPフィルムを固定し、反射極点図と透過極点図を測定して各種強度補正後に接続した全極点図です。110、040極点図の極がTD方向に観測されており、004極点図ではMD方向に極が存在していることから、1軸配向であることがわかります。ただし、図6のエンド入射のΦプロファイルと同様に、110と040極点図のTD方向の強度分布が一様でないことから、完全な1軸配向ではないことが分かります。040の極点図から配向度関数を算出しました(表1)。ここでの配向度関数は(040)の格子面法線(b軸に相当)がND、TD、RDのどちらに多く向いているかを表しています。0から1の間の値が算出され、値が大きい程その方向に(040)の格子面法線が向いていることになります。表1の結果から、b軸はTD方向より、ND方向に多く向いていることが分かります。
図1. 全自動多目的X線回折装置 SmartLab 9kW
図2. 繊維試料ホルダー(スルー入射時)
図3. :繊維試料ホルダー(エッジ・エンド入射時)
図4. PPの結晶構造(単斜晶)
図5. エッジ入射による2θ/θプロファイル
図6. スルー入射、エッジ入射、エンド入射によるΦ(β)スキャンプロファイル
図7. スルー入射による繊維配向度、配向度関数の算出
(上記のΦスキャンプロファイルは040)
図8 . 反射・透過極点測定によるPPフィルムの全極点図
表1 . 040極点図から計算された配向度関数
配向度関数 | |
fND | 0.5602 |
fMD | 0.0286 |
fTD | 0.4111 |
*アプリケーションノートに記載されている測定・解析結果は、株式会社リガクによるテスト結果であり、他の環境下で常に同様の結果となることを保証するものではありません。
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