固体医薬品の評価法③ ~水和物について調べる~

Application Note XRD1003

はじめに

固体医薬品は、その結晶形によって溶解性、バイオアベイラビリティ(生物学的利用能)、安定性などの物性が異なることが知られています。水和物と無水物は擬似結晶多形と呼ばれる関係にありますが、温度、雰囲気、湿度、圧力、賦形剤などに対する物理的・化学的安定性などが異なります。一般的に、水和物は無水物よりも溶解速度が大きいことが知られています。原薬および製品の品質保持や製剤化工程でのトラブル回避のためには、擬似結晶多形の有無とそれらの性質の違いを把握することが不可欠です。

また、析出の条件によって、1水和物と3水和物のように水和水の数(または溶媒和の数)が異なる場合も多々あり、既存品と異なれば新しい擬似結晶多形とみなされることがあります。

水和物の確認には、粉末X線回折(XRD)、熱分析(DSC、TG-DTA)、X線回折―示差走査熱量同時測定(XRD-DSC同時測定)、IRスペクトル、固体NMR、水蒸気吸着等温線測定などが用いられます。

示差熱天秤(TG-DTA)測定では、加熱しながら試料の重量変化(TG)と吸熱・発熱の様子(DTA)を同時に測定します。TGに現れる減量から、水和数(または結合している溶媒の数)が求められます。→分析結果1

粉末X線回折では、被検試料と水和物や無水物の標準試料との比較を行い、その同定が可能です。→分析結果2、3

水溶媒から結晶化した場合には、結晶水のほかに付着水(自由水ともよばれる)が含まれる場合もあります。結晶水と付着水では医薬品の安定性に対する寄与が異なります。分子量の大きな医薬品の場合には、結晶水によって構造が安定する場合が多いのに対して、付着水は逆に医薬品を不安定にすることが多いといわれています。

XRD-DSC同時測定は同一試料・同一温度・同一雰囲気で、相転移や化学反応による熱的変化と結晶状態変化を同時に測定する手法です(1)。この測定結果からは、DSCに吸熱ピークがある場合、粉末X線回折プロファイルの変化がない付着水か、プロファイルにも変化がある結晶水の脱水かの区別が可能である他、無水物と水和物の相転移挙動も観察することができます。→分析結果4

XRD-DSC同時測定装置に湿度発生装置を付加すると、乾燥雰囲気から最高60℃ 90%RH*1(水蒸気18%、乾燥ガス82%)の高湿度雰囲気まで、様々な温度・湿度条件下での脱水・転移・非晶質化・結晶化・融解挙動及び、湿度安定性に関する情報が得られます。医薬品は製剤過程で様々な湿度条件下に置かれたり、製剤化後の保存環境下における湿度安定性が問題になることもあるため、このような装置でのシミュレーションを早い段階から行う必要があります。→分析結果5

そこで、TG-DTA、粉末X線回折、XRD-DSC同時測定によってテオフィリン(喘息薬)無水物と1水和物を測定した結果を紹介します。

また、XRD-DSC同時測定装置に湿度発生装置を付加して、抗アレルギー薬ネドクロミルナトリウムを測定した結果を紹介します。

分析結果1

図1はTG-DTAによるテオフィリンの測定結果です。

無水物では100 ℃まで重量変化が見られないのに対して、1水和物では通常の水和物に見られる脱水温度範囲で、1水和物の理論減量率9.08%にほぼ等しい9.11%の減量と吸熱ピークが観測されました。この結果から両試料が無水物および1水和物であることが確認されました。

TG-DTAによる測定結果

1. TG-DTAによる測定結果


分析結果2

図2は前述のようにして得られたテオフィリン無水物と1水和物の粉末X線回折測定結果の比較です。このように粉末XRDでは無水物と水和物の示すプロファイルの違いが一目でわかるという特長があります。

テオフィリン無水物と1水和物の粉末X線回折プロファイルの比較

2. テオフィリン無水物と1水和物の粉末X線回折プロファイルの比較


分析結果3

図3はテオフィリンの100%無水物、100%1水和物および2%1水和物を含む無水物の粉末XRDパターンの比較です。無水物、1水和物の標準試料を用いると微量の擬似多形の定量もできます。

テオフィリンの無水物、1水和物および2%の1水和物を含む無水物の粉末X線回折プロファイル(*印が1水和物のピーク)

3.  テオフィリンの無水物、1水和物および2%の1水和物を含む無水物

の粉末X線回折プロファイル(*印が1水和物のピーク)


分析結果4

図4は付着水を僅かに含んだテオフィリン1水和物の脱水過程をXRD-DSC同時測定した結果です。XRD-DSC同時測定結果には、右側にDSC曲線、左側に粉末X線回折プロファイルが多重表記され、同じ温度領域で測定された粉末X線回折とDSCのデータ(たとえば、赤色、緑色で着色された部分)を対比させて観察することができます。

図4のDSCには30~40℃にブロードで小さな吸熱ピークが、57~75℃には大きな吸熱ピークがみられます。一方、粉末X線回折プロファイルをみると30~40℃ではプロファイルの変化がありませんが、57~72℃の領域ではプロファイルが大きく変わります。

この結果から、DSCに見られた最初の小さな吸熱ピークは結晶構造変化を伴わない付着水の脱水、次の大きなピークは結晶水の脱水に対応すると考察できます。

テオフィリン1水和物の脱水過程

4. テオフィリン1水和物の脱水過程


分析結果5

抗アレルギー薬ネドクロミルナトリウムの安定形は3水和物ですが、このほかに7.5水和物、1水和物、無水物が存在することが知られています。

3水和物を未粉砕および粉砕状態で湿度雰囲気を変えて、XRD-DSC同時測定したところ、粉砕や湿度の条件を変えると、特定の温度帯で安定に存在できる水和物が少しずつ異なることがわかりました(東邦大薬学部 寺田勝英教授らとの共同研究による)。

図5には、未粉砕品のXRD-DSC同時測定結果の一例(27 ℃3%RH相当の乾燥雰囲気中、昇温測定部分)を示します。この条件下で、ネドクロミルナトリウムは、3水和物⇒1水和物⇒1水和物+無水物⇒無水物と変化することがわかりました。一連の測定の結果、前述の条件の冷却測定時には無水物のままであること、27 ℃60%RH相当の湿雰囲気中では250 ℃からの冷却過程で、無水物、3水和物、1水和物の混合物になることなどもわかっています。

このように複数の水和物が存在する場合には、安定した製造プロセスの確立と良好な品質管理のために、目的とする温度・湿度条件下でどのような水和物・無水物の構成になるのか、また粉砕手段や粉砕の程度の影響を予め把握しておく必要があります。

乾燥N2雰囲気中でのネドクロミルナトリウム3水和物のXRD-DSC 同時測定結果(湿度分圧:27 ℃3%RH相当, 昇温測定部分)

5. 乾燥N2雰囲気中でのネドクロミルナトリウム3水和物のXRD-DSC

    同時測定結果(湿度分圧:27 3%RH相当, 昇温測定部分)


*1 %RH(相対湿度)…一定体積中の水蒸気量と、その空気の飽和水蒸気量(そのときの温度で含みうる最大の水蒸気量)との比を%で表すもの。一方、「絶対湿度」は単位体積の空気中に含まれる水蒸気の質量を表す。(2)

 

参考文献

(1) “X線回折-示差走査熱量同時測定装置 XRD-DSC II”, 理学電気ジャーナル 30(2) (1999) 65-68.

(2) 日本化学会: 第2版標準化学用語辞典 (丸善, 2005) pp. 383

 

*アプリケーションノートに記載されている測定・解析結果は、株式会社リガクによるテスト結果であり、他の環境下で常に同様の結果となることを保証するものではありません。

*アプリケーションノート中の社名、製品名は各社の商標および登録商標です。

*このアプリケーションノートに掲載されている製品は、外国為替および外国貿易法の安全保障輸出管理の規制品に該当する場合がありますので、輸出する場合、または日本国外に持ち出す際は、日本国政府への輸出許可申請等、必要な手続きをお取りください。

 

Copyright (C) 2012 Rigaku All Rights Reserved

お問合せ

製品選びから据付後の技術サービスまで、何でもお気軽にお問合せください。