Multiple hkl法による薄膜の残留応力評価

    Application Note B-XRD3005

    はじめに

    薄膜に残留する応力は、膜と基板を変形する原因になります。膜の残留応力は成膜過程中に生成しやすく、引張応力は膜の亀裂を、圧縮応力は部分膨張を引き起こします。薄膜の残留応力と基板との付着性によっては、外観上問題のない薄膜でも、時間経過とともに膜の剥離や基板変形が起こることが報告されました。残留応力を評価する方法として、X線回折法があります。格子面間隔の変化量から残留応力値を算出する方法で、回折角度の変化が大きい高角側の回折ピークの変化を観測します。この方法は信頼性の高い残留応力値が算出されるものの、X線が試料表面から数μmから数十μmの深さまで侵入するため、薄膜試料では目的の回折ピークの観測が困難となります。そこで、斜入射X線回折法により膜からの回折X線を効率的に観測し、複数の指数の回折ピークを解析に使用するMultiple hkl法を用いて、薄膜の残留応力値を算出した例を紹介します。

    測定・解析例

    X線を試料表面に広く浅く照射する斜入射法を用いて測定した酸化インジウムスズ膜(以下、ITO膜)の残留応力計算結果を図1に示しました。試料面法線と格子面法線とのなす角度(ψ)を広く測定するため、Cr線源を利用しました。入射角度は薄膜の回折ピークが強く観測される角度(ω=1˚)に固定し、検出器軸を移動させて回折プロファイルを測定しました(図1(a))。立方晶に適用可能で比較的実験値に近い数値が得られるKrönerモデルからヤング率とポアソン比を算出し、プロファイルフィッティングから得られたピーク位置を使用して残留応力値を計算しました。その結果、ITO膜には-784±74 MPaの圧縮応力が存在していることが分かりました(図1(b))。このように、斜入射X線回折法を利用したMultiple hkl法は、非破壊で比較的容易に薄膜の残留応力を評価できる有力な方法です。

    X線回折プロファイルフィッティング結果(a)と残留応力の計算結果(b)

    1 X線回折プロファイルフィッティング結果(a)と残留応力の計算結果(b

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