粗大結晶粒からなる電磁鋼板の 残留応力評価への試料揺動の効果
はじめに
電磁鋼鈑、アルミ合金、ステンレス鋼、溶接部材、鋳造材など、多くの金属材料において、数十 μmを超える大きな結晶粒(粗大粒)が形成されることがあります。この場合のX線回折パターンは連続的なデバイ環ではなくスポット状の回折線を示すため、回折ピーク位置の変化を観測する残留応力の評価は難しいと言われてきました。X線回折に寄与する結晶子の数を増やしてプロファイルを平滑化する方法としては、試料に対するX線照射面積を大きくする方法と、試料に対するX線の入射角度をある角度範囲で変化させる「揺動」という方法があります。ここでは、これら2つの方法を用いて粗大結晶粒を有する電磁鋼鈑の残留応力測定を行い、その効果を評価しました。
測定・解析例
結晶粒径が約 20 μmの電磁鋼鈑に対して、揺動せずにコリメーター径のみを変えて測定した結果を図1-(a)に、コリメーター径をΦ 1 mmに固定して揺動幅のみを変えて測定した結果を図1-(b)に示します。揺動を行わなかった場合、回折プロファイルが凹凸に分裂したり、Kα1線とKα2線による回折ピーク強度比の理論値(2:1)から大きく乖離したりするなど、異常なプロファイル形状となりました。一方、±5,±10°の揺動を行いながら測定すると、Kα1線とKα2線によるピーク強度比が理論値と一致した、滑らかなプロファイルが観測されました。
コリメーター径と揺動幅の条件を組み合わせて測定を行い、残留応力値を求めた結果を表2に示します。揺動を行わなかった場合(揺動幅±0°)は、コリメーター径Φ 1 mm以下ではプロファイル形状の異常により応力値が計算できず、Φ 2 mmでも応力値の信頼限界値が非常に大きくなりました。一方で揺動を行った場合は、いずれのコリメーター径でも信頼限界値の小さい応力値が求められました。以上から、残留応力測定において粗大結晶粒の影響を抑えるには、揺動が効果的であることがわかりました。
図1 コリメーター径と揺動幅による回折プロファイルの比較 (Cr線源,計数時間:10~200 sec)
(a) コリメーター径を変えたとき (b) 揺動幅を変えたとき
表1 残留応力測定結果 (ヤング率:223300 MPa,ポアソン比:0.28)
試料ご提供 : JFEスチール株式会社 様
推奨装置
- 微小部X線応力測定装置 AutoMATEⅡ
- X線分析統合ソフトウェア SmartLab Studio II (Stressプラグイン)