2次元検出器を用いた XRD-DSC 同時測定によるアセトアミノフェンの相転移追跡
はじめに
新型コロナウイルスやインフルエンザなどによる発熱時の解熱鎮痛剤として服用されるアセトアミノフェンは、複数の結晶多形が報告されており、市販薬には溶液中から容易に結晶化するI型が使用されています。II型はI型に比べ溶解性や錠剤化に優れている一方、熱的安定性が低く、結晶化制御に課題があります。またIII型は短時間でII型へと相転移するため、熱挙動の取得が困難であることが知られています。今回の測定では、短時間で回折パターンの取得が可能な2次元検出器を用いたXRD-DSC同時測定により、アセトアミノフェンI型からII、III型への結晶相転移を観察しました。
測定・解析例
表1に測定条件を、図1に測定結果を示します。本測定では、アセトアミノフェンI型を室温から190°Cまで昇温させ、その後-20°Cまで降温させた後、再度190°Cまで昇温させました。DSC曲線に着目すると、昇温過程で2つの吸熱反応ピークと1つの発熱反応ピークが確認されました。1つ目の昇温過程では、170°Cに吸熱反応ピークが観測され、2次元回折パターンより、I型の融解が確認されました。2つ目の昇温過程では、76°Cに発熱反応ピークが観測され、II型とIII型の結晶化が確認されました。次に115°C付近に着目をすると、2次元回折パターンから、熱反応ピークが検出されにくい(1) III型からII型への相転移が確認され、それにより162°Cの吸熱反応ピークはII型の融解であることが明らかとなりました。
このように短時間で測定可能な2次元検出器を用いることで、相転移速度が速い医薬品試料の変化を捉えることが可能となります。
表1 XRD-DSC同時測定条件
測定角度範囲 | 露光時間 | 昇降温速度 | 雰囲気 |
2θ: 2–30° | 30秒 | 2 °C/min | 乾燥窒素雰囲気下 |
図1 XRD-DSC同時測定結果
参考文献: (1) アセトアミノフェンの熱挙動, リガクアプリケーションノート, B-TA 1034
推奨装置・ソフトウェア
- 全自動多目的X線回折装置 SmartLab + X-ray DSC + ハイブリッド型多次元ピクセル検出器 HyPix-3000
- X線分析統合ソフトウェア SmartLab Studio II (XRD DSCプラグイン)