XRD-DSC 同時測定によるスタチン系薬の 結晶相変化の観察
はじめに
医薬品原料に使用される結晶性物質は、熱や湿度により結晶構造が変化することで、医薬品の有効性や安定性に影響を及ぼす可能性があります。そのため安定的な品質を保つには温度や湿度に対する結晶構造変化の把握が重要となります。ここでは、X線回折(XRD)と示差走査熱量分析(DSC)の同時測定装置と水蒸気発生装置を用いて、複数の結晶相を有するスタチン系脂質異常症治療薬の結晶構造変化を調べました。
測定・解析例
図1に水蒸気発生装置を用いたスタチン系薬のXRD-DSC測定結果を示します。X線回折プロファイルに着目すると、複数の結晶相由来と考えられる回折ピークが確認されました。相対湿度50 %RHで、試料温度を25 °Cから150 °Cまで昇温させたところ、2つの吸熱反応ピークと、それぞれの反応温度においてX線回折プロファイル変化が確認されました。1つ目の吸熱反応は、結晶相②から結晶相③への相転移、2つ目の吸熱反応は、結晶相①から結晶相④への相転移と結晶相③の融解に起因していると考えられ、3つの結晶相による2回の熱反応挙動が確認されました。
図1 スタチン系薬のXRD-DSC同時測定結果 (左:回折プロファイル、右:温度・熱流・湿度チャート)
図2に複数の湿度条件でXRD-DSC同時測定により得られた相対湿度に対する結晶相変化と熱反応の関係を示します。
X線回折プロファイルの変化から見積もられた相転移温度と、DSCチャートから得られた各吸熱反応の外挿温度は一致しており、相対湿度が高くなるにつれ、相転位温度が高くなることが確認されました。
このようにXRD-DSC同時測定を行うことで、相対湿度に対する結晶相転位温度を推測することができるため長期保存試験や加速試験の条件決定にも有効です。
図2 相対湿度に対する結晶相変化と熱反応の関係
推奨装置・ソフトウェア
- 全自動多目的X線回折装置 SmartLab + X-ray DSC
- X線分析統合ソフトウェア SmartLab Studio II (XRD DSCプラグイン)