PDF解析によるフタロシアニン銅の分子積層間隔の算出
はじめに
フタロシアニン化合物は有機低分子材料として知られ、優れた電気的特性と耐久性を有することから、有機半導体材料や新幹線の青色塗料として広く用いられています。フタロシアニン分子の中心に金属元素が配位することで、様々な光学的・電気的特性を示すことが知られています。フタロシアニンは分子が積み重なった柱状の分子パッキング構造を形成し、分子積層方向への一軸性の電気伝導を示します。電気的特性は分子積層間隔に依存すると考えられますが、通常の粉末X線回折では分子積層間隔を見積もることができません。PDF解析は重元素の原子間距離を算出できるので、金属フタロシアニンの中心金属間距離の算出に有効と考えられます (1)。
測定・解析例
フタロシアニン銅の分子構造と分子パッキング構造の模式図を図1に示します。粉末X線回折プロファイルはCu管球を用いて反射X線回折を測定し、PDFパターンはAg管球を用いて透過X線回折を測定しました。
図1 フタロシアニン銅の分子構造と分子パッキング構造の模式図
粉末X線回折プロファイルを図2に示します。指数付けを試みましたが、格子定数を決定することができませんでした。図1に示した分子パッキング構造において分子積層間隔がカラム間隔と比較して短いため、高角度側に分子積層構造に由来するピークが検出されます。2θ = 23.7°(3.75 Å)に分子積層構造由来と考えられる強度の高いピークが検出されたことから、中心金属間距離は3.75 Åよりも長いと考えられます。
図2 粉末X線回折プロファイル
PDFパターンを図3に示します。また、解析ソフトウェア(PDFgui)を用いて、フタロシアニン銅の単分子からPDFパターンを算出し、比較しました (2)。その結果、原子間距離が3.54 Å、4.60 Å、4.88 Åに相当するピーク強度が異なっていることがわかりました。これは単分子によるシミュレーションでは分子間の原子間隔が考慮されないことが原因と考えられます。粉末X線回折の結果を考慮すると、中心金属間隔は4.60 Åまたは4.88 Åであることが示唆されました。
図3 測定結果のPDFパターンと単分子を用いてPDFパターンをシミュレーションした結果
データベース(ICDD PDF-4/Organics)に記載された結晶構造によると中心金属間距離は4.81 Åであり、解析結果の4.88 Åに対応していると考えられます。以上のように粉末X線解析では見積もることが困難な中心金属間距離を、PDF解析により算出できる場合があります。
参考文献
(1) 白又 勇士, 吉元 政嗣: リガクジャーナル, 50(1) (2019) 1-8.
(2) P. Juhas, C. L. Farrow, X. Yang, K.R. Knox and S. J. L. Billinge: Acta Crystallogr., A71 (2015) 562-568.
推奨装置・ソフトウェア
- 全自動多目的X線回折装置 SmartLab + Ag管球
+ CBO-E集光光学系 + キャピラリーアタッチメント - 高分解能・高速1次元X線検出器 D/teX Ultra250 HE
- ハイブリッド型多次元ピクセル検出器 HyPix-3000 HE
- X線分析統合ソフトウェア SmartLab Studio II (Powder XRDプラグイン, PDFプラグイン)