電子密度解析によるゼオライトの構造評価
はじめに
ゼオライトは多孔質アルミノケイ酸塩として知られ、吸着能・イオン交換能・分子ふるい能・触媒能などに優れた特性を持つ材料です。中でも触媒能に焦点を当てると、ディーゼル燃焼時に生成されるNOx(窒素酸化物)浄化が可能なNH3-SCR(selective catalytic reduction)触媒として商業的に利用されています。このSCR触媒にはCHA型のゼオライトが用いられていますが、カチオンをCuイオンに交換することでNOxに対する触媒活性を高めることが可能です。Cuの原子位置は触媒活性や耐久性に影響するため、材料開発・設計のためには、観測強度とモデルから計算した電子密度分布の差が視覚化できる差フーリエ解析やマキシマムエントロピー法(MEM ; maximum entropy method)などの電子密度解析が有効な解析手段となります。
測定・解析例
一般的に燃焼に伴う排気ガスは水蒸気を含み高温となります。本測定ではReactor-Xを用いて、850 ̊Cの高温下で10 vol%の水蒸気を導入した排気ガス類似環境を作り、Cu交換CHAゼオライトの水熱安定性をXRDにて評価しました。図1に水蒸気導入直後(0時間後)、3.3時間後、6.6時間後に得られたXRDプロファイルを示します。水蒸気導入の時間が長くなるほど結晶性ピークの強度は減少し、非晶質由来のハロー強度が増加していることから、非晶質化が進行したことがわかりました。図2に、水蒸気導入におけるゼオライト中のCuの原子位置を特定するために差フーリエ解析を行った結果を示します。0時間後、3.3時間後ではSiの6員環の中心にCuが位置し、6.6時間後では2つの積層した6員環(D6R ; double 6-membered ring)の中心にCuが位置していることがわかりました(1)。
図1 水蒸気導入0時間後、3.3時間後、6.6時間後のXRDプロファイル
図2 差フーリエ解析結果 (左)水蒸気導入0時間後(3.3時間後もほぼ同様)、(右)6.6時間後 (緑球:電子密度の差)
参考文献 (1) T.Usui, Z.Liu,H.Igarashi,Y.Sasaki,Y.Shiramata,H.Yamada,K.Ohara,T.Kusamoto and T.Wakihara : ACS Omega, 4 (2019) 3653-3659.
推奨装置・ソフトウェア
- 全自動多目的X線回折装置 SmartLab + Cu管球 + 粉末X線回折用光学ユニット CBO-α
+ 赤外線加熱高温装置 Reactor-X + 高分解能・高速1次元X線検出器 D/teX Ultra250 - X線分析統合ソフトウェア SmartLab Studio II (Powder XRDプラグイン)