XRD-DSC測定によるバターの結晶構造の観察

    Application Note B-XRD1135

    はじめに

    バターの味と食感は温度により敏感に変化します。保存中の温度変化に影響を受けず、常に良好な味と食感を有するバターを生産するため、バターの生産者は油脂結晶のラメラ構造と副格子構造に注目しています。材料の結晶化や融解が始まる温度を決定しその結晶構造を特定するには、X線回折とDSCの同時測定が有効です。ここではバターの味と食感に影響する、ラメラ構造と副格子構造の温度変化を、X線回折とDSCの同時測定を用いて調べました。

    測定・解析例

    図1にXRD-DSC同時測定結果を示します。XRD測定は、ラメラ構造と副格子構造を同一温度条件下で観測するため、2D露光モードで行いました。温度変化は、夏場にバターを購入し、家庭で利用する過程を想定しました。冷蔵庫から出したバターを40 °Cまで加熱した後5 °Cまで冷却(1回目、①)したのち、5~30 °Cの温度領域の加熱と冷却を3回繰り返しました。DSC曲線から観測したバターは、1回目の加熱直後から吸熱反応が観測され、31 °Cで完全に融解し、冷却すると12 °Cから結晶化が始まりました。2回目以降(②-④)は加熱すると5 °Cから融解し、冷却すると12 °Cから結晶化しました。1回目融解後結晶化したラメラ構造と副格子構造は、初期構造とは異なる長さ(d値)を示しました(図2)。2回目以降の冷却では、副格子構造は直方晶のβ’ 型の初期構造に戻りましたが、ラメラ構造は約2 Å長いd値を示しました。これらの結果から、ラメラ構造の長さの変化が、味と食感に影響している可能性が考えられます。加えて、温度条件を変えたテンパリングにより、初期構造と同一のラメラ構造を再現できる可能性も示唆しています。結晶化と融解開始直後の極微量の熱流変化を検知するDSCと、結晶構造を確認するX線回折の同時測定は、味と食感を維持するためのテンパリング条件の検索にも不可欠です。

    バターのXRD-DSC同時測定結果図1 バターのXRD-DSC同時測定結果 (a)温度による回折強度の経時変化と熱流変化 (b)回折プロファイルの温度変化とラメラ構造由来の回折ピークの拡大図

    ラメラ構造とβ’ 副格子構造由来の回折ピークのd値の温度変化図2 ラメラ構造とβ’ 副格子構造由来の回折ピークのd値の温度変化

    推奨装置・ソフトウェア

    • 全自動多目的X線回折装置 SmartLab + 微小部測定光学ユニット CBO-f 
      + ハイブリッド型多次元ピクセル検出器 HyPix-3000+ X-ray DSC
    • X線分析統合ソフトウェア SmartLab Studio II (Data Visualization, XRD DSCプラグイン)

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