XRD-DSC同時測定によるチョコレートの結晶構造観察
はじめに
柔らかくてなめらかな口溶け感のチョコレートを作るために、テンパリングという作業が行われます。テンパリングは脂質の結晶化温度を意図的に変化させて、味や風味を最もよい状態にすると同時に安定な結晶多形をより効率的に作るための工程です。チョコレート原料であるココアバターは副格子構造の違いにより、いくつかの多形を有します。その中でも、Ⅴ型は安定な多形で、融点が高く、チョコレート製品として最適な結晶相と報告されています。Ⅴ型チョコレートのみを選択的に形成させるためには、テンパリング速度の制御が重要です。ここでは、XRD-DSC同時測定法を利用し、テンパリング速度によるチョコレートの結晶構造と結晶化温度を調べました。
測定・解析例
Ⅴ型チョコレートを38 °Cで融解した後、冷却速度による結晶化過程の違いを調べました(図1)。表1にDSCの発熱ピークの開始温度であるオンセット温度とピークトップの温度、X線回折ピークが観測される開始温度と結晶相を示します。DSC曲線は、冷却速度を5 °C/minから0.5 °C/minまで制御することにより、結晶化が始まるオンセット温度が高温側にシフトし、オンセット温度から結晶成長がほぼ完了するピークトップ温度までの温度差が小さくなっています。X線回折プロファイルは、冷却速度を下げることにより、Ⅱ型からⅤ型の結晶成長が起こることを示しています。これらの結果は、冷却速度を下げると、高温で安定相のⅤ型の核生成と成長が充分に行われて、Ⅴ型の結晶が素早く成長したことを示唆しています。XRD-DSC同時測定は、XRDとDSCを同一環境下で測定し結晶構造と熱特性を一対一で対応付けることが可能です。従って、DSC測定から観測された吸熱ピークだけでは判断が困難である結晶相の融解と構造相転移の区別と、X線回折では強度が観測しにくい結晶化開始温度の確認が可能です。
図1 冷却速度の違いによるXRD-DSC同時測定結果
表1 冷却速度の違いによるDSC発熱ピークのオンセット温度とピーク温度、X線回折ピークの観測開始温度と結晶相
冷却速度 (°C /min) |
DSCの発熱ピーク | X線回折ピーク | |||
オンセット温度 (°C ) | ピークトップ温度 (°C ) | 観測開始 温度(°C ) |
観測された 結晶相 |
||
第1ピーク | 第2ピーク | ||||
5 | 21.6 | 15.2 | – | 17 | II |
2 | 22.3 | 17.4 | 15.1 | 20 | II >> V |
1 | 23.2 | 20.9 | – | 23 | II > V |
0.5 | 25.3 | 23.9 | – | 24 | V |
推奨装置・ソフトウェア
- 全自動多目的X線回折装置 SmartLab + 微小部測定光学ユニット CBO-f + ハイブリッド型多次元ピクセル検出器 HyPix-3000 + X-ray DSC
- X線分析統合ソフトウェア SmartLab Studio II (XRD DSCプラグイン、Data Visualizationプラグイン)