DD法®による食塩の味の数値化
はじめに
食塩は主成分である塩化ナトリウム以外にも、様々な味の素になるミネラル成分を含んでいます。ミネラル成分の量比によって、味が大きく変化したり、他の栄養成分の消化吸収が阻害されたりもします。天然の食塩に含まれているミネラル成分には、(1)検量線の作成が不可能、(2)登録された結晶構造のデータベースが少ない、(3)結晶に含まれている水の組成が不明確なケースが多い などの問題があります。これらの理由により、混合物の定量分析に広く利用されているX線回折を用いた定量分析法は、食塩中のミネラル成分の定量には適用が困難でした。Direct Derivation (DD)法®は、各回折線の積分強度を高精度に測定しさえすれば、化学組成式のみから定量分析が可能となり、さらに化学組成が多少ずれていても定量分析の精度に大きく影響しない方法です (1)。ここでは、DD法®を用いて、5種類の産地の異なる食塩に含まれているミネラル成分を定量し、食塩の味との関係を調べました。
測定・解析例
5種類の産地の異なる食塩の回折プロファイルを測定し、回折ピーク位置と相対強度比を用いてデータベースから同定した結晶相と、それら結晶相のDD法®による定量分析結果を図1に示しました。各結晶相には一般的に知られている味の特徴を併記しました。岩塩には多様なミネラル成分が含まれていました。湖塩には含有されていないにがり成分が岩塩に含まれていることから、岩塩の採取場所が過去に海であったということが推測されます。海水塩にもかかわらず、シチリアと糸満の食塩にはにがり成分が含まれていない一方、糸満と同じ沖縄県産である石垣島の食塩にはにがり成分が含まれています。これは沖縄本島と石垣島との地理的な違い、もしくは食塩の精製度合いの違いを示しているのかもしれません。また、石垣島の食塩が糸満の食塩よりも豊かな味を示すとすれば、CaSO4・xH2OとMgSO4・xH2Oの含有量が多いためと説明することが可能です。X線回折法とDD法®を併せて活用することにより、食塩の精製度合いの判断基準や味の数値化が可能となります。
図1 5種類の食塩の成分とDD法®による定量分析結果
参考文献: (1) 虎谷秀穂: リガクジャーナル 50 (2) (2019), 29-36.
推奨装置・ソフトウェア
- 全自動多目的X線回折装置 SmartLab
- X線分析統合ソフトウェア SmartLab Studio II (Powder XRDプラグイン)
※「DD法」「Direct Derivation Method」「DD Method」は、株式会社リガクの商標または登録商標です。