BVS法によるイオン価数の評価
はじめに
結晶構造のイオン価数は材料特性のメカニズム理解や新しい材料のデザインのための重要な結晶構造パラメーターの一つです。イオン価数を実験的に求める方法にはXAFS(X-ray Absorption Fine Structure)、XPS(X-ray Photoelectron Spectroscopy)、メスバウアーなどの分光法、Rietveld法に基づいたMEM(Maximum Entropy Method)法、BVS(Bond Valence Sum)法があります。この中でもBVS法は、粉末材料のRietveld解析で求めた結合距離を用いてカチオンの平均価数を求める手法で、実験室系のX線回折装置を使用して簡便に行うことができます。ここでは、2種類のマンガン酸化物のイオン価数を評価した例を紹介します。
測定・解析例
Cu線源を用いて2種類のMn酸化物(Mn3O4とMn2O3)の粉末X線回折測定を行いました。Mnからの蛍光X線は検出器の蛍光低減モードで除去し、測定角度はMn-Oの結合距離の約1/2~1/3の面間距離(d = 0.82 Å、2θ/θ= 140˚)まで測定し、Rietveld解析を行いました。Rietveld解析から得られたMn-Oの結合距離と入力したMnのイオン価数に対応するBond Valence Parameter (Mn2+:1.790(3)、Mn3+:1.760(5)) (1) により計算されるBVS値から、結晶構造に適するカチオンの価数を予測することが可能です(図1)。信頼度因子Rwp = 4.49%、Rp = 2.62%、S = 1.6093のMn3O4の結晶構造と、Rwp = 4.55%、Rp = 3.59%、S = 1.1949 のMn2O3の結晶構造から算出されたBVS値を表1と2に示します。BVS法は結晶構造からイオン価数を簡単に求めることに加え、結晶構造の安定性や妥当性評価にも有力な方法です。
図1 Mn3O4のBVS計算の入力画面 (Mnの価数を3価に入力した場合、Mn1サイトのBVSは1.92(2価)、Mn2サイトのBVSは2.98(3価)に算出される)
表1 Mn3O4の結晶構造とMnイオンのBVS値
Space group | 141: I41/amd:1 | ||||
a (Å) | 5.76227(10) | b (Å) | 5.76227(10) | c (Å) | 9.47347(18) |
α (°) | 90.000 | β (°) | 90.000 | γ (°) | 90.000 |
Element | x | y | z | Occupancy | B | BVS |
Mn1 | 0.0000 | 0.0000 | 0.0000 | 1.0 | 0.13(3) | 2.085 |
Mn2 | 0.0000 | 0.2500 | 0.6250 | 1.0 | 0.17(2) | 2.980 |
O1 | 0.0000 | 0.2228(4) | 0.3825(2) | 1.0 | 0.19(4) | – |
表2 Mn2O3の結晶構造とMnイオンのBVS値
Space group | 206: Ia3 | ||||
a (Å) | 9.41533(13) | b (Å) | 9.41533(13) | c (Å) | 9.41533(13) |
α (°) | 90.000 | β (°) | 90.000 | γ (°) |
90.000 |
Element | x | y | z | Occupancy | B | BVS |
Mn1 | 0.0000 | 0.0000 | 0.0000 | 1.0 | 0.46(3) | 3.047 |
Mn2 | 0.28519(6) | 0.0000 | 0.0000 | 1.0 | 0.50(3) | 3.026 |
O1 | 0.1296(3) | 0.1473(3) | -0.0841(2) | 1.0 | 0.50(3) | – |
参考文献: (1) I. D. Brown and D. Altermatt: Acta Cryst., B41 (1985) 244-247.
推奨装置・ソフトウェア
- 全自動多目的X線回折装置 SmartLab、SmartLab SE
- X線分析統合ソフトウェア SmartLab Studio II (Powder XRD プラグイン)