PDF解析によるシリカガラスの構造評価
はじめに
PDF解析は、原子間距離と配位数の情報を散乱パターンから抽出することができます。さらに得られたPDFプロファイルにRMC(Reverse Monte Carlo)シミュレーション※を適用すれば、非晶質の構造を解き明かすことも可能です。※あるセル内の原子を乱数により移動させ、実測PDFプロファイルを最もよく再現することができる構造モデルを構築する手法。
測定・解析例
シリカガラスの構造モデルは、図1に示されるようなW.H.Zachariasenによって提唱された不規則編目構造が有名です(1)。図1からシリカ結晶のSi原子はO原子を介して6員環を形成し(左)、シリカガラスのSi原子は6員環以外の環状構造も形成していることが分かります(右)。この短距離構造を導出するために、RMCProfileソフトウェア(2)を用いてシミュレーションを行いました。セルはガラスの原子数密度を考慮して一辺約35 Åの立方体とし、この中に、Si原子・O原子を合計3000個ランダムに配置したものを初期値としました。RMCシミュレーションを実行した結果、実測PDFとよく一致する計算PDFプロファイルが得られました(図2)。計算PDFから再現された構造を図3に示します。環状構造中のSi原子の個数分布をISAACSソフトウェア(3)にて求めたところ、図4に示す通り、6員環以外の環状構造も存在することがわかりました。これはシリカガラスが不規則編目構造を持つことを示唆しています(4)。
図1 シリカ結晶(左)・シリカガラス(右)の構造モデル
図2 実測PDFとRMCから得られたPDF
図3 RMCから得られたシリカガラスの構造
図4 環状構造中のSi原子数の個数分布
参考文献: (1) R. L. McGreevy et al.: Molecular Simulation, 1 (1988), 359-367.
(2) W. H. Zachariasen: J. Am. Chem. Soc., 54 (1932), 3841-3851.
(3) S.Le Roux et al.: J. Appl. Cryst., 43 (2010), 181-185.
(4) S.Kohara et al.: Proc. Nat. Acad. Sci. 108 (2011), 14780-14785.
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