PDF解析による強誘電体ナノ粒子の結晶構造評価
はじめに
強誘電体BaTiO3(BT)はコンデンサー材料として広く使われています。BTの強誘電性は正方晶の結晶構造と強く関係していますが、粒径が数十ナノメートル以下になると立方晶を示し強誘電性が消失されることが報告されています。BTの粒径による結晶構造の変化は、コア部が正方晶でシェル部が立方晶のシェル構造モデルにより説明されています。粉末材料の結晶構造解析法はX線回折プロファイルを用いたRietveld解析です。BTの場合、粒径が小さくなると正方性(tetragonality = c/a, aとcは格子定数)が1に近づき、Rietveld解析だけでは正方晶と立方晶の区別やシェルモデルに基づいた解析が困難になります。最近、近距離情報が得られるPDF(atomic Pair Distribution Function, 原子対相関関数, G(r))解析が注目されています。G(r)は距離“r”に離れた位置に原子が存在する存在確率の情報が得られるため、小さい正方性を示す結晶性の材料でも局所構造の対称性を考慮した解析が可能です。ここでは、PDF解析を用いてBT粉末材料の構造を評価します。
測定・解析例
平均粒径が約30~50nmのBT粉末材料をφ0.5mmのボロンケイ酸塩キャピラリーに入れ、透過X線回折を測定しました。高いQレンジと高強度の回折プロファイルを測定するため、Mo管球と専用の集光ミラー(CBO-E)を使いました。回折プロファイルは補正と規格化を行い、構造因子S(Q)を求めた後、G(r)にフーリエ変換しました。図1(a)はG(r)と立方晶、正方晶、立方晶と正方晶のシェルモデルでシミュレーションした結果です。Rietveld解析では正方性が1に近いため立方晶と正方晶の区別が難しく、3つのモデルで解析した結果の信頼度因子がほぼ同一結果を示しました(表1、図1(b))。一方PDF解析では、立方晶で解析すると信頼度因子が約23.6%でしたが、立方晶と正方晶で解析するとシミュレーション結果と観測プロファイルがよく一致し信頼度因子は約12.6%まで大幅に改善されました。従って、この材料は立方晶と正方晶で構成される、シェル構造モデルであることが示唆されます。以上のように、PDF解析は極小な正方性或いは類似な結晶構造を有する粉末材料でも信頼度の高い結晶構造を決定するのに有効です。
図1 (a)立方晶(下)、正方晶(中)、立方晶と正方晶のシェルモデル(上)で解析したBaTiO3粉末材料のPDF解析結果と、(b) PDF解析で得られた立方晶と正方晶のシェルモデルの構造パラメータを利用して得られたRietveld解析結果
表1 立方晶(cubic)、正方晶(tetragonal)、シェルモデル(cubic+tetragonal)を用いた
Rietveld解析から得られた格子定数と信頼度因子
Cubic | Tetragonal | Cubic + Tetragonal | |||
Rwp(%) | 6.53 | 5.88 | 5.79 | ||
s | 2.22 | 2.00 | 1.96 | ||
格子定数 (Å) | a | 4.00582(4) | 4.00262(4) | 4.0082(5) | 4.00206(3) |
c | - | 4.01410(8) | 4.01381(5) |
推奨装置・ソフトウェア
- 全自動多目的X線回折装置 SmartLab + Mo 管球 + CBO-E集光光学系
- X線分析統合ソフトウェア SmartLab Studio II (PDFプラグイン)