2 次元小角X 線散乱法による リン脂質膜の結晶相転移観察

Application Note B-XRD1029

はじめに 

生体内の細胞は、リン脂質やコレステロールなどから構成された生体膜で仕切られています。リン脂質は親水基と疎水基を持つ両親媒性で、外側に親水基、内側に疎水基を持つ脂質二重層を形成します。脂質二重層は一般的には球状の閉鎖型構造(リポソーム)になっており、その中に薬剤などを取り込ませることによるDDS(drug delivery system)への応用が期待されています。小角X線散乱法では、リポソームなどのDDS材料が生体に機能するメカニズムを調べることができます。

測定・解析例

卵や大豆に含まれるレシチンの成分であるDPPC(dipalmitoyl phosphatidylcholine)は代表的なリン脂質の一つで、DPPC二分子膜は温度に依存してゲル相、リップル相、液晶相と呼ばれる三つの膜構造をとります。ゲル相はリン脂質の疎水基である炭化水素鎖の秩序性が高い構造を持ちます。液晶相は炭化水素鎖の主鎖の回転によって鎖がゆらいだ秩序性が低下しており、これが膜透過性を高める要因となっています。リップル相はゲル相と液晶相の中間の性質を持ち、温度に依存して急激に膜透過性が変化します。図1に、DPPC二分子膜の膜構造モデル図と25, 40, 45 ˚Cにおける2次元X線小角散乱像、それらを変換したX線小角散乱パターンを示します。測定の結果、リップル相のパターンはゲル相と液晶相のパターンが重なった状態であることがわかりました。このように様々な条件下での膜構造を in-vitroで把握することで、徐放効果や促進効果などの機能をコントロールした、より効果的なリポソームの設計を行うことが可能となります。

DPPCの膜構造モデル図 および 2次元X線小角散乱像とX線小角散乱パターン

図1 DPPCの膜構造モデル図 および 2次元X線小角散乱像とX線小角散乱パターン

推奨装置

  • 全自動水平型多目的 X 線回折装置 SmartLab + ハイブリッド型多次元ピクセル検出器 HyPix-3000
  • X線分析統合ソフトウェア SmartLab Studio II (Powder XRDプラグイン)

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