低温領域でのXRD-DSC測定による イオン液体の結晶化挙動の観察
はじめに
分子性の陽イオンと陰イオンで構成されるイオン液体は水や有機溶媒につぐ“第3の液体”といわれ、その電気伝導性の高さから、燃料電池や太陽電池などの電気化学分野において注目されています。ここでは、X線回折と示差走査熱量の同時測定装置を用いて、-70 ˚C 付近の低温下におけるイオン液体の結晶化挙動を観察した例を紹介します。
測定・解析例
イオン液体の一種であるDEME (N,N-diethyl-N-methyl-N-2-methoxyethylammonium tetrafluoroborate)に、水を0.6 mol% と 6 mol% 添加した混合溶液を用意しました。X線回折と示差走査熱量を同時に測定できるX-ray DSCアタッチメントを用いて、混合溶液を -70 ˚C以下に冷却し、その後室温まで加熱しながら結晶化の挙動を観察しました。測定結果を図1と2に示します。含水率が 0.6 mol% の試料は -70 ˚Cで結晶化していました(図1)。一方、含水率が 6 mol% の試料は -70 ˚Cでは結晶化しておらず、約 -50 ˚Cまで昇温すると低温結晶化し、0 ˚C 付近で融解しました。(図2)。このように、わずかな含水率の違いで複雑な相変化を示す物質でも、X線回折と示差走査熱量の同時測定を行うことで、結晶化をはじめとする相変化を容易に観察することが可能です(1)-(3)。
図1 0.6 mol%混合溶液のXRD-DSCの同時測定結果
図2 6 mol%混合溶液のXRD-DSCの同時測定結果
参考文献: (1)Yusuke Imai, Hiroshi Abe, Takefumi Goto, Yukihiro Yoshimura, Yosuke Michishita and Hitoshi Matsumoto: Chemical Physics, 352 (2008), 224-230.
(2)Yusuke Imai, Hiroshi Abe, Takefumi Goto, Yukihiro Yoshimura, Shogo Kushiyama and Hitoshi Matsumoto: The Journal of Physical Chemistry B, 112 (2008), 9841-9846.
(3)Yusuke Imai, Hiroshi Abe and Yukihiro Yoshimura: The Journal of Physical Chemistry B, 113 (2009), 2013-2018.
試料ご提供 : 防衛大学校電気情報学群機能材料工学科 阿部 洋 先生
推奨装置
- 全自動多目的X線回折装置 SmartLab + X線回折-示差走査熱量同時測定装置 X-ray DSC
- X線分析統合ソフトウェア SmartLab Studio II (XRD DSCプラグイン)