高分解能集光ビーム光学系を用いた 低分子医薬品材料の未知構造解析
はじめに
低分子医薬品は、巨大分子基盤の医薬品に比べて細胞膜に吸収されやすい特徴を生かし、新薬開発の先導材料として使われています。低分子医薬品材料の機能や結合した高分子との反応を解明するためには、その結晶構造を調べる必要があります。しかし、多くの低分子医薬品材料は、単結晶の作製が難しく、単結晶法による結晶構造解析が困難でした。ここでは、低分子医薬品の粉末試料を、Ge(111)ヨハンソン型湾曲結晶を用いた高分解能・高強度光学系でX線回折測定し、直接空間法とRietveld法により結晶構造を決定した例を紹介します。
測定・解析例
図1に、2種類の光学系で測定したγ-インドメタシン結晶のX線回折プロファイルを示します。Triclinic(三斜晶系)の結晶構造を有するγ-インドメタシン結晶は、多数の回折線が密集して生じます。CuKα1とKα2を含む平行ビーム光学系では確認が困難であった回折ピークが、Ge(111)ヨハンソン型湾曲結晶を用いてCuKα1のみに単色化した高分解能集光ビーム光学系では容易に確認できました。
高分解能集光ビーム光学系にて測定した回折プロファイルを用いて解析した構造モデルを図2に示します。結晶の初期構造を比較的結晶性の低い材料でも分子の位置と向きを解析することのできる直接空間法により決定した後、Rietveld法で結晶構造を精密化しました。その結果得られた結晶構造は、単結晶構造解析により得られた構造とよい一致を示しました。このように、高分解能集光ビーム光学系によるプロファイル測定と、直接空間法とRietveld法を組み合わせた解析により、未知構造の低分子材料でもその結晶構造を精度よく解くことが可能となります。
図1 平行ビーム光学系(赤:上パターン)と高分解能集光ビーム光学系(青:下パターン)で得られた。γ-インドメタシンの回折プロファイル( ↓ は平行ビーム光学系で確認できなかったピーク)
図2 粉末結晶と単結晶から得られた γ- インドメタシンの結晶構造
推奨装置・ソフトウェア
- 全自動多目的X線回折装置 SmartLab + Kα1ユニット + CBO-E集光光学系 +
高速・高分解能1次元X線検出器 D/teX Ultra250 - X線分析統合ソフトウェア SmartLab Studio II (Powder XRDプラグイン)