アプリケーションノート B-TA1082
はじめに
ポリエチレンテレフタレート(PET)は、包装材や工業材料として広く使用されており、その熱履歴に伴う熱分析評価は材料特性を左右する重要な因子となります。
本アプリケーションでは、試料観察機能付きSTAとChromTA™(色彩熱分析)を組み合わせ、非晶質PETの加熱過程における各熱イベントを、熱分析曲線及び画像イメージに加えて試料外観色の変化に基づく構造変化から評価しました。
測定・解析例
測定には、試料観察ユニットを搭載したSTAを用いました。 試料には非晶質PETペレット14.567 mgを使用し、窒素ガス雰囲気(300mL/min)下で、昇温速度3℃/minに設定し、室温から280℃まで加熱しました。 測定中はTG-DSCを取得すると同時に、試料表面を連続的にモニター撮影し、得られた画像データをChromTAにより解析しました。画像イメージから4種類の色空間データ(RGB、CMYK、HSVおよびLab*)を算出し、温度および時間と同期させることで、熱イベントと外観(構造)変化との相関を評価しました。
図 1 TG-DSC結果とChromTAによる色調変化の同期グラフ
図1に非晶質PETペレットのTG-DSC結果とChromTAによる色調変化の同期グラフを示します。
DSC曲線上では、低温側(70℃~90℃)にガラス転移によるベースライン変化が確認されました。この温度域において、ChromTA解析では画像変化に同期したL*値をはじめとする色パラメータにも顕著な変化が観測されました。これは、非晶質物質に特徴付けられるガラス状態からゴム状態への分子運動性の変化が、試料の光学的特性として反映されていることを示しており、ガラス転移挙動の補助的な指標として有用な情報となります。
ガラス転移後の昇温過程では、DSC曲線上に明瞭な結晶化発熱ピーク(145℃)が観測されました。同温度域においてChromTA解析では、各色パラメータにも顕著な変化が確認され、結晶化の進行に伴う微細構造変化(核生成と成長プロセス)が試料外観色の変化として反映されていることが明確に示されました。さらに各色パラメータの変化が一定の値に収束する温度域(150℃)が確認され、結晶化の進行だけでなく、その完了点を視覚的かつ定量的に捉えられています。また、色変化の開始温度はDSCピーク開始温度よりもやや低温側の120℃付近よりすでに観測されており、ChromTAが結晶化初期段階の検出にも有効であることが示唆されました。
高温側では、DSC曲線上に融解に起因する吸熱ピーク(256℃)が観測されました。この温度域では、色パラメータが不連続的に変化し、結晶構造の消失に伴う試料状態の変化を捉えている一方で、温度範囲によっては単純な融解挙動のみでは説明できない色変化、も確認されました。このことから、融解と同時に局所的もしくは一時的な再結晶化が進行している可能性が示唆されました。
試料観察STAによる試料イメージ変化とChromTA解析を組み合わせることで、非晶質PETのガラス転移、結晶化、融解といった一連の熱挙動を、熱分析曲線と色調情報の両面から評価できることが示されました。ChromTAは、従来の熱分析では捉えにくい構造変化の前兆や不均一性の把握に有効であり、さまざまな材料の分析や研究開発用途において高付加価値な材料評価手法となります。