今日から始める“熱分析”シリーズ #2. DSC 原理と解析

概要:
熱分析の世界へようこそ!本ウェビナーシリーズでは、熱分析を始めたばかりの皆様が最初に知るべき熱分析(TG-DTA、DSC、TMA)の基礎知識を、全3回に渡って習得できます。​

第2回では、DSCの原理や実際の測定事例を基に、DSCの解析手順をご紹介します。DSCをどのように利用したらよいか分からない、DTAとDSCの違いを知りたい、といったお悩みに役立つ内容となっています。 また今回の「より良い熱分析を行うための測定条件」のコラムでは、試料形状に適したサンプリング方法や測定雰囲気についてお届けします。

このセミナーで学べること:
・DSCの原理と基礎
・DSCの測定結果の見方と解析手順
・試料のサンプリングと測定雰囲気の選び方

こんな方におすすめ!
・熱分析装置を使い始めた初級レベルの方
・熱分析装置の基礎を学び直したい方


Q&A:

Q1: 混合物ポリマーのDSCを測定する時には1回目の測定結果の場合と、1回目測定後の試料を冷却して2回目を測定した結果を比べて、吸熱ピークなどの消失、融解エンタルピーの変化が起こっていた場合、どちらの測定結果をもちいればよいのか?

各昇温過程におけるDSC測定結果は、直前までに得た熱履歴を反映しています。1回目のDSC測定結果は試料である混合物ポリマーを得るまでの熱履歴を反映しており、2回目の測定結果は1回目の試料を測定した後の冷却条件を反映した結果となります。どちらの状態における試料の熱物性が必要であるか、その測定目的によって用いる測定結果を選択します。

 

Q2: Tgは一般にベースラインのシフトであるが、Tgでも吸熱ピークのように形状を示すことがあるか?

エンタルピー緩和を伴うガラス転移の場合、吸熱ピークを伴うベースラインシフトが見られます。

 

Q3: ベースラインのシフトが発熱方向に起こる事はありますでしょうか?

比熱容量が増大する現象は思い浮かびません。

 

Q4: 基準物質は、測定材質、その温度範囲で多数用意されているのでしょうか。

基準試料は測定範囲で変化の無い物質であればなんでも構いません。一般的にはアルミナが使用される場合が多いです。試料の熱物性を考えると水溶液の場合は水、金属試料であればPtなども用いられる場合もあります。また、測定試料の量が少ない場合は空容器で測定しても問題ありません。

 

Q5: DSCで接着剤の比熱を測定します。 サンプリング量や昇温/降温などの条件設定はどのように考えればいいですか?

試料量はベースラインのシフトが2mW以上シフトする程度の試料量、昇温速度は5~10℃/minくらいで選択されるのが良いと思われます。

 

Q6: フラット領域はブロックの温度変化と平行である領域を指す、ということでしょうか。それとも基準物質との平行でしょうか?ブロック領域との平行だと、基準物質の役割がよく分からないのですが。

DSC曲線は測定試料と基準物質の温度差を参照します。測定試料に熱的な変化がない場合は基準物質と同じように昇温されるため、温度差は一定値となりDSC曲線は水平になります。

 

Q7: 吸熱反応面積は、DSCでは、プラスでしょうかマイナスでしょうか

グラフ表記上、リガクの装置では面積値はマイナスとして表記されます。

 

Q8: 吸熱(又は発熱)ピークを挟んでフラット領域が平行でなくシフトしている場合の反応エネルギー算出のための積分の仕方がよく分からなかったので(積分ラインの引き方)、再度説明して頂けないでしょうか。

ピークの前後でベースラインがシフトしている場合、ベースラインと比較して変化が始まる点を開始点として、変化が終わりベースラインに戻る点を終了点としてピークのベースラインを設定します。

 

Q9: 同じ低分子化合物で、ロット(バッチ)違いのものをDSCで測定したとき、融解エネルギーの差はどの程度までは正常な範囲でしょうか?

材料に関係する再現性はお答えできません。なお、装置の状態にもよりますが、DSCにてInの融解エネルギーを測定した場合の再現性は±1%程度となります。通常、試料を測定した場合これ以上のバラツキが考えられます。

 

Q10: サイクル測定のときは液体窒素を使用するのでしょうか。液体窒素を使用しなくても、降温しますか?

液体窒素以外では、冷媒を循環させて冷却するサーキュレーター冷却ユニットや、電気的に冷却する電気冷却ユニットが選択肢として上げられます。これらの冷却ユニットは、冷却したい温度や降温速度に応じて選択します。

 

Q11: DSCで発生ガスのでる測定を行うのはよくないということですが、そのほか、感熱板での影響を考えたときに、測定が好ましくない試料がありましたら教えていただきたいです

特にありませんが、溶融による試料の流れ出しなど、物理的に直接感熱板に試料が接触してしまう現象は装置破損につながります。

 

Q12: ガスが発生しているかどうかを簡単に調べる方法はありますか。

TG-DTAを使用して試料の減量が見られる温度を測定します。

 

Q13: 吸熱や発熱ピークが何由来のものかは、どのように判断しますか?例えば吸熱なら融解・結晶転移、発熱なら結晶化・結晶転移などそれぞれ様々な現象が考えられると思いますが、特定するには何か他の測定結果と併せて考えますでしょうか。

ご指摘の通り、DSC測定のみで吸熱及び発熱ピークにおける反応を特定することはできません。このため、これら現象を特定するにはXRD-DSCが有効な手段の一つとなります。

 

Q14: InをPt容器を使用すると合金化しないのでしょうか

DSCにてInの融解を測定する際にはPt容器を使用しても問題はありません。

 

Q15: 気化によって感熱板に影響を与えそうな試料の場合、気化によるその影響を防ぐためにシールパンを使用するのは正しい使い方でしょうか

はい、そのようにお使いいただくと良いと思います。なお測定試料の気化を抑制した条件下における測定である点と、シール容器の耐圧を超えるとリークする点にご注意ください。

 

Q16: 液体試料も測定できるのですか。そのDSC曲線は固体と比べて特徴があるのでしょうか。

液体試料を測定した場合も固体と同じようにDSC曲線が得られます。ただし液体試料の気化や蒸発を抑制するためにシール容器を使用した場合、シール容器の注意点として大気圧の測定ではないこと、容器の耐圧が測定温度範囲になることが挙げられます。

 

Q17: 多孔性粉末の測定をすると、試料を圧着してもエネルギー量(積分値)が期待される値より大幅に小さいことがある(In の値は正常)。試料と容器(Al)の間の熱移動のロスを減らす方法はありますか?

容器と試料の密着性をあげることが一番と考えられますが、多孔質なのであれば空気を内部に含むことが考えられるため、材料的は困難であることが予想されます。

 

Q18: 吸熱ピークの面積値を解析したいときの、ピークの開始点の決め方について教えていただけますでしょうか。

原理的にはピーク面積はベースラインからベースラインを引くため、ベースラインが十分に水平且つフラットであればベースライン上はどこをとっても面積計算には問題ないと考えられます。これに対しブロードなピークの場合ピークの開始点については境界線が不明確になる場合が多くなります。しかしながらこの場合でもベースラインがどこなのかを考えることが重要となり、ブランクの結果やピーク後のフラットな領域の延長線などを考慮して面積範囲を決める必要があります。

 

Q19: マイナスの温度での標準試料はありますか?

マイナスの温度域の較正では、標準試料としてシクロヘキサンの固相間転移や融解反応を用います。

 

Q20: 金属の比熱を測る場合、何mgくらいが妥当ですか?

材料の比熱容量によりますがベースラインのシフトが2mW以上はシフトする量を選択します。

 

Q21: クリンプ容器は密封されていないことに驚きました(圧力をかけるのに)

クリンプ容器は試料と容器の密着性を向上するために行います。密封するためには密封(シール)容器を使用する必要があります。

 

Q22: 外挿転移温度などを求めているのはなぜでしょうか?それらの値を求めて何がわかるのでしょうか?

測定結果から反応が開始または終了する温度を読みたい場合、曲線がベースラインから離れる、またはベースラインに戻る温度を読む必要がありますが、実際は曲線上からこの変化を正確に読み取ることは困難であり人による解析誤差が生じやすくなります。外挿温度はベースラインの接線と変化中の最大傾斜の接線といった客観的に決まる線の交点を取るため、人為的な解析誤差が小さくなり、且つ変化の始まる温度や終わる温度に近い温度の解析となります。特に外挿開始温度はピーク形状によっては反応温度としても取り扱いやすい場合もあるため、反応温度を比較する際に用いられる場合も多くあります。 なお純金属の融点測定では吸熱ピークの外挿開始温度を融点と参照します。これは純金属の融解による吸熱ピークの形状が、ピークの開始温度と外挿開始温度でほぼ同じ値を取るためです。

 

Q23: 測定試料がハイドロゲルの場合、どのような測定方法が望ましいのでしょうか。測定時に多量の水が蒸発して装置を痛めてしまうでしょうか。よろしくお願いいたします。

水の蒸発が及ぼす装置への損傷はほぼありませんが、測定時に蒸発による吸熱ピークが現れてしまうため、その他の反応ピークは隠れてしまうことが予想されます。このような場合はシール容器を用いて水の蒸発を抑えながら測定することでその温度領域の変化を見ることができます。ただし、上述のようにシール容器を使用する際は耐圧などに注意する必要があります。

 

Q24: 試料が酸化分解(Air下)する場合のTGDTAはどのようになりますか?

TGでは減量が見られ、DTAでは発熱ピークが見られます。

 

Q25: サンプリングについて、液体は針状のもので採取するのが良いとのことですが、粘度が高い、あるいはペースト状のサンプルの適したサンプリング方法はありますか?

粘度が高くピペットやシリンジなどで採取ができない場合は、針やクリップの先端など細くとがったものに試料を付着させて容器にサンプリングします。

 

Q26: 初歩的なことですが、TG-DTAとDSCの使い分け(どういったときはどちらの手法を使うか)を教えてください。

TG-DTAは試料の重量変化と反応における吸発熱温度を同時に測定する手法です。脱水や分解などの脱ガス反応や酸化や燃焼などの雰囲気ガスとの反応を目的とすることもあります。一方でDSCは反応における吸発熱温度と反応エネルギー量を測定する手法です。脱ガス反応を伴わないガラス転移や結晶化、融解などの反応温度やエネルギー量を求めることを目的とします。DTAとDSCを比較すると、装置構造の違いからDSCの方が感度が高く、より微細な反応を精度よく検出することができます。

 

Q27: 融解で吸熱ピークが確認できると思いますが、融解と同時に分解が起こる材料では、吸熱ピークではなく分解反応で発生する熱によって発熱ピークが検出されます。発熱量の裏にある吸熱量を確認する方法はありますでしょうか。

分解反応が発生するとDSCでは吸熱反応が見られます。また同時に発生した複数の反応における各々の反応エネルギー量を確認する場合、分離分解能を上げることを検討します。測定における試料量を少なく、昇温速度を小さくすることで各々の反応におけるピークの分離を試みます。

 

Q28: ベースラインが安定しない場合の対処方法を教えてください。測定開始時と終了時の熱量の差がないように補正した方が良いですか?

ベースラインがどのように安定しないのかによります。再現性が無いのであればブランク測定を複数回行い、装置由来か試料由来かを判断し、装置由来であればメーカーのサービスにお問い合わせ頂くのが良いかと思います。試料由来なのであれば、試料量や試料の形状、容器の歪みなどできるだけ同一の状態で測定した際に再現性が向上するかを検討すると良いと思われます。 ベースラインが傾くなどの問題であればスロープ調整など装置の調整を行うと良いと思われます。

 

Q29: ご説明いただきありがとうございました。実際の測定例を見せていただきましたが、結果がDSCではなく、TG-DTAのものでした。反応エネルギーの定量を行わないのであれば、TG-DTAとDSCで得られる結果は同じと考えて良いのでしょうか?

DTAと熱流束型DSCは測定原理が同じであるため、得られる吸発熱ピークやベースラインシフトの情報は同じです。しかしTG-DTAとDSCでは装置構造が異なるため、DSCの方がよりフラットなベースラインやシャープなピークを得ることができます。またDTAでは検出できない微細な変化をDSCで検出することが可能です。

 

Q30: 結果(温度)の再現性はどの程度でしょうか。有意な誤差とするレベルはどのように定義すれば良いでしょうか。

DSC装置としての再現性としてInの融解測定における吸熱ピークの再現性は±0.1℃程度となります。実際の試料の測定ではサンプリングばらつきや解析誤差などの方が大きい場合が多いため、実サンプルをN回測定し判断することをお勧めします。

 

Q31: 試料を「急冷させる」という表現を文献などでよく見かけますが

急冷に明確な定義はございません。言葉としては一瞬で冷やすことを指しますが、相対的には”冷却過程で意図した反応を起こさせない速度”といった、冷却速度によって物質の状態変化が異なる場合によく比較対象として用いられます。

 

Q32: 溶媒を含んだ試料のDSC測定を行った場合に、溶媒の蒸発が起きた際、一般的には吸熱ピークとして観測されますでしょうか?

試料の蒸発反応が起きた場合、DSC曲線に吸熱ピークが見られます。

 

Q33: 何℃/minから急冷と定義されるのでしょうか?

Q.31をご参照下さい。

 

Q34: ガラス粉末を対象試料とした場合、ガラス転移点の物性値(例えば、軟化点など)をDSCやTG-DTAで測定することは可能でしょうか?

ガラスの軟化温度として柔らかくなる温度という意味であればTMAを用いますが、形状が変化する温度として認識される物性値の場合はDTAを用いて測定されることがあります。DTAでは形状変化によってベースラインが変化する特性を利用しガラス材料ではこのベースラインの変化温度を測定することがあります。ただしこの形状変化はエネルギー変化ではないため、装置の構造上、DSCでは形状変化によってベースラインは変化しないため、このような測定はDTAが用いられます。

 

Q35: 長期使用のために、測定後の清掃に気を付けることはございますでしょうか。固着したサンプルは削ったほうが良いのでしょうか。

物理的に削ると感熱板を損傷する恐れがありますので行ってはいけません。固着したサンプルの排除では、高温でサンプルが分解するようであれば焼き飛ばすくらいしかありません。

 

Q36: 複数の成分からなる材料(複合材料、樹脂のブレンドなど)をDSCで測定する場合、注意すべき点などありましたら教えていただきたいです。

分解温度に注意して測定します。

 

Q37: 酸素ガスを流して酸化能を評価することは可能でしょうか。

酸化誘導時間(OIT)の測定で酸素ガスを使用する場合がありますが、感熱板の酸化を促進させるため、試料の燃焼反応を著しく促進させる場合があるなど、あまり高温まで昇温しないことをお勧めします。なお、酸素雰囲気は装置保障外となり、装置から排出される酸素ガスにも注意が必要です。

 

Q38: 分解ガスの発生を伴う測定はNGとのことですが、分解ではなく揮発により発生したガスは問題ないでしょうか? どのようなガスであれば測定可能なのかを教えて頂きたいです。

具体的には炉体、感熱板、熱電対などと反応するガス、凝集するガスなどがNGとなりますが、このようなガスを特定することができないため試料からガスが発生しない温度域で使用することを推奨しています。このためH₂OやCO₂など影響の少ないガスも存在しますので、最終的には測定者の判断に委ねられることになります。

 

Q39: 粘度のあるサンプルをS-DSCでピークの大きさから1.0mgで測定しています。

サンプリングの違いによる懸念があるのであれば、複数回測定して測定結果の再現性を確認することが望ましいかと思われます。なお試料を容器底面に対して均一に広げることが難しい場合は、容器中央に試料を付着させることが好ましいです。

 

Q40: 均一に出来ないのですが、n数重ねる必要がありますでしょうか?

Q.39をご参照下さい。

 

Q41: 爆発性や着火性の傾向をDSC測定から判断することは可能か?

着火性は測れません。爆発性に関して、一般的な物質において評価の方法は記載されていませんが、 消防法の第5類危険物評価法にてDSCを用いた評価が記載されております。ご参考頂いければと思います。

 

Q42: 本日の資料を頂くことは可能でしょうか?

セミナースライドのPDF等資料のご提供はございません。講義はリガクのホームページにてオンデマンド配信を行っておりますので、そちらをご視聴下さい。

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