結晶スポンジ法による揮発性香気成分の構造解析

アプリケーションノート B-SCX1016

はじめに

香気成分は、揮発性の高い液体または気体であることや、天然資源から十分な量を単離するのが難しいことから、結晶構造解析による構造決定が困難でした。しかし、結晶スポンジ[1]と呼ばれる細孔性ネットワーク錯体(MOF)の結晶に香気成分の蒸気を包接させることで、香り分子を結晶中で周期配列させることができ、結晶構造解析によってその分子構造を直接決定することが可能になります。

測定・解析例

香気成分を発する測定対象試料として、市販の練りワサビとライム香の食器用洗剤を用いました。あらかじめ結晶溶媒をtrans-デカリンに交換した結晶スポンジ※1を2 mLのHPLC用高回収バイアルに数粒取り出しました。図1に示すように、30 mLのバイアルに、結晶スポンジを入れた高回収バイアルを入れ、その隣に香気成分を発する試料(約0.5 g)を入れて蓋を締めました。室温で1日置いた後、結晶スポンジを取り出してXtaLAB Synergyシリーズの回折計※2にマウントし、測定温度100 Kで回折データの収集を行いました。CrysAlisProを用いて回折データを処理し、Olex2およびSHELXを用いて構造解析を実施しました。

図1: 結晶スポンジへの香気成分の包接

図1: 結晶スポンジへの香気成分の包接

練りワサビの香気成分を包接させた結晶を構造解析したところ、結晶スポンジの骨格構造の空隙の中に浮かび上がる形で、ワサビの辛味成分として知られるイソチオシアン酸アリルの分子構造が得られました(図2)。イソチオシアン酸アリルは融点が-102 ℃と低いため結晶サンプルの作製が難しく、これまでに結晶構造解析の実施例はありません。結晶スポンジの格子中に封じ込めることで、低融点化合物の周期配列を実現し、結晶構造解析による分子構造決定ができました。

図2: 練りワサビの香気成分の結晶構造解析

図2: 練りワサビの香気成分の結晶構造解析

また、食器用洗剤の香気成分を包接させた結晶を構造解析したところ、テルペン類の一種であるd-リモネンの分子構造が得られました(図3)。融点-74 ℃のd-リモネンについても、結晶スポンジ法を用いることにより初めて結晶構造解析ができました。市販のライム香料は、d-リモネンの他にも数種類のテルペン類が含まれた混合物であることが知られています。今回、分子構造が類似したテルペン類の中から、d-リモネンのみが選択的に結晶スポンジの空孔内に取り込まれていました。この選択性は、香料中の含有量や結晶スポンジとの分子間相互作用の強さに起因するものと推測されます。

図3: 食器用洗剤の香気成分の結晶構造解析

図3: 食器用洗剤の香気成分の結晶構造解析

※1:[(ZnI2)3(tpt)2(trans-decaline)n]x(tpt = 2,4,6-tris(4-pyridyl)-1,3,5-triazine)
※2:XtaLAB SynergyCustom (FR-X, Cu Kα, HyPix-Arc 150°)またはXtaLAB Synergy-S (PhotonJet-S, Cu Kα, HyPix-6000HE)

参考文献: [1] Y. Inokuma, S.Yoshioka, J. Ariyoshi, T. Arai, Y. Hitora, K. Takada, S. Matsunaga, K.Rissanen, M. Fujita: X-ray analysis on the nanogram to microgram scale usingporous complexes,Nature495(2013) 461–466. doi:10.1038/nature11990

推奨装置・ソフトウェア

  • 単結晶X線構造解析装置XtaLAB Synergyシリーズ
  • 単結晶構造解析 統合プラットフォーム CrysAlisPro

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