ストリングチーズ中の乳タンパク凝集状態の観察
はじめに
食品科学にて材料の内部構造の観察は、食感や味の要因を探るために必要な基礎研究の一つです。食品の内部構造の観察にはSEMやTEMなどの電子顕微鏡が利用されていますが、凍結、乾燥、染色などの前処理が必要なため、得られる画像は変形または変質した食品の観察となり、食品本来の内部構造の観察には限界があります。一方X線顕微鏡は、食品をありのまま非破壊で観察することができます。加えて、Cu線源を利用できるため、軽元素で構成されている食品も、非常に高いコントラストで内部構造を観察することができます。ここでは、市販のストリングチーズの内部構造をX線顕微鏡にて観察し、3D画像処理により、ストリングチーズの歯ごたえと関連する繊維質の厚みを定量的に評価した例をご紹介します。
測定・解析例
直径約2 mmに裂いた市販のストリングチーズを試料として、1枚当たりの露光時間2.4秒、総撮影時間30分の測定データから試料内部のCT(Computed Tomography)画像を得ました。図1にCT断層図を示します。(a)~(c)は、異なる方向からの直交する断層を示し、各断層上の十字線の交点は同一座標を表します。白い部分は高密度で、黒い部分は低密度を表します。ストリングチーズの内部は、球状の高密度の部分(食塩)と筋状の低密度の部分が不均一に分布していることがわかりました。また、側面と正面で観察された繊維質は、上面図では網状に繋がっていることがわかりました。
繊維質の厚さを定量的に評価するため、CT画像のうち繊維質にあたる部分を取り出し、厚さを計測しました。結果、繊維質の厚さは1~11 μmのサイズを有していることがわかりました(図2)。加えて、厚さにより色付けした3次元の画像からは、繊維質は1本の糸のような形ではなく、凝集したタンパク質と思われる塊が縦方向に並んでいることが明らかとなりました。以上のように、X線顕微鏡は前処理を必要とせず、非破壊でミクロンオーダーの内部構造を観察することが可能です。また、3次元解析により、観察目的成分の形状の確認と定量が可能です。
図1 ストリングチーズの断層図(a)上面図 (b)側面図 (c)正面図
図2 (a)繊維質の厚さごとに色付けした3次元画像と (b)厚さ分布
推奨装置
- 高分解能3DX線顕微鏡 nano3DX