NEX CG II による 超低硫黄軽油(ULSD)の定量分析
はじめに
世界各国の規制により、様々な燃料や油に含まれる硫黄(S)の量が制限されています。軽油に含まれる硫黄分は10〜15ppmに制限されている地域もあれば、50ppm以下を目指している地域もあります。自動車、トラック、バンカー用燃料のほか、石炭火力発電のバックアップ燃料としても、基準値以下の燃料の使用が義務つけられています。
こうした石油業界では、極微量のS濃度に対し、迅速かつ信頼性の高い測定方法が求められています。NEX CG IIは、極微量Sを測定するため、2次ターゲット方式を用いた偏光光学系を採用しています。この方式は励起線源を単色化することができ、測定時のバックグラウンドが非常に低く、信頼性の高い測定が可能です。表1に示す燃料油の国際的な試験基準ASTM D7220やEPAの要求を満たすことができます。
表1 国際規格一覧
図1 NEX CG II
検量線
検量線は、市販の6水準の認証標準試料を用いて作成しました。検量線を図2に示します。
図2 硫黄(S)の検量線
測定精度
NEX CG IIの精度を確認するために、検量線に使用した標準試料で単純10回繰り返し定量測定を行いました。表2に結果を示します。良好な繰り返し精度が得られています。
表2 繰り返し定量分析結果
試験基準検証
米国環境保護庁(EPA: Environmental Protection Agency)が定める40 CFR 80.584 (自動車用ディーゼル燃料、NRLM(Non-road, locomotive, and marine)ディーゼル燃料及びECA(Emission Control Areas)船舶用燃料の硫黄含有量を測定するための試験方法)において、微量S領域に注目し、検証しました。
装置に要求される性能として、硫黄分5~15ppm含有の均質なディーゼル燃料を用いて20日間で、最低20回の繰り返し測定を行い、その結果の標準偏差が0.72 ppm未満を満たす必要があります。20回の測定は連続で行う必要があります。表3に市販のディーゼル燃料から採取したサンプルで試験を行った結果を示します。標準偏差は0.13 ppmとなり、NEX CG IIは規格を十分に満足します。
表3 長期間精度判定結果
また、1~10 ppmの範囲における精度規格があります。市販の硫黄標準試料を用いて、少なくとも10回の繰り返し測定を行い、その平均値が、その標準試料の許容基準値(ARV : Accepted Reference Value)と0.54 ppm以上の差があってはならないこととされています。同様に、10~20 ppm範囲における精度規格も上記と同じとなっています。
結果を表4に示します。いずれの測定結果も規格値を満足しています。
表4 10回繰り返し測定による判定結果
まとめ
NEX CG IIは偏光光学系と2次ターゲットによる単色励起により、精度の高い超低硫黄軽油USLDの分析が可能であることを示しました。また、国際的な試験基準の要求を満たすことができ、特に偏光光学系のみが規定されているASTM D7220(自動車用燃料、暖房用燃料、ジェット燃料:硫黄濃度 3 - 50 mg/kg)の測定にはNEX CG IIが最適です。
今回の測定はヘリウム雰囲気下で行いましたが、大気測定においても分析可能です。分析線のS Kαに対する空気の吸収により、S Kαの強度は約1/3に減衰します。精度は強度の平方根となります。例えば、ヘリウム雰囲気下で1 ppmの精度のものが、大気下では1.7 ppmとなり、わずかな精度低下で済みます。
NEX CG IIはディーゼル燃料をはじめとするすべてのオイル試料において高いパフォーマンスを提供することができるエネルギー分散型蛍光X線分析装置といえます。