有機電界効果トランジスタの動作機構の解明 ~熱刺激電流による電子トラップの解析~
Application Note
TA7003
何がわかるのか?
熱刺激電流測定(Thermally Stimulated Current :TSC)は、試料に電界を加えることにより試料内部や表面および界面に存在する電荷トラップを注入キャリアで蓄積させ、昇温過程でのトラップサイトからの熱放出(脱トラップ)現象で生じる熱刺激電流を検出する測定手法です。
一般的な無機半導体材料のみならず、有機電子材料の電荷トラップの測定が可能であり、有機電界効果トランジスタ(FET)の有機層内部や絶縁層近傍の電荷トラップを検出する手法として有用です。
測定・解析例
有機FETは、低コストで柔軟な素子が作製できる点で注目されています。有機半導体層に吸着した酸素や水分子が、n型有機FETの電子輸送特性に大きな影響を与えていることが知られています。C60を半導体層としたn型FETの構造を図1に示します。大気中の水と酸素を吸着させたC60FETのTSCスペクトルを図2に示します。C60FETの加熱により水と酸素を脱気することで、低温側のTSCピークが消失することが分かりました。低温側のピークはC60層に吸着した水と酸素に由来した電子トラップを示します。また、高温側のTSCピークは絶縁層近傍に存在する電子トラップと推測されます。
TSC測定法は有機FETの特性を低下させる原因となっている有機層内部や絶縁膜近傍の電子トラップを計測する手法として有効です。
図1 C60FETの構造
図2 C60FETの熱刺激電流特性
推奨装置: 熱刺激電流測定装置TS-FETT
- データ:九州大学 未来化学創造センター 安達千波矢教授 ご提供
- 参考文献: Matsushima, Y. Masayuki, and C. Adachi, Appl. Phys. Lett. 91, 103505 (2007)