コーヒー豆の熱抽出成分の分析
はじめに
コーヒーの香り、旨味は100種以上の成分による複雑な調和によって形成されるため、その成分分析や各成分の加熱時の発生状況は品質管理上、非常に重要な因子になります。今回は市販のコーヒー豆に関してTG-DTA/GC-MS、トラップモードにて分析を行いました。
装置
TG-DTA/GC-MS
TG-DTA/GC-MSはリガク製のTG-DTAとGC-MS(リガクから販売しておらず、他メーカーの装置を使用)をキャピラリー型インターフェースにて結合した装置で、TG-DTAで発生したガスをこのインターフェースを介してGC-MS側に輸送して分析を行います。
TG-DTA/GC-MSの測定手法(モード)にはダイレクトモードとトラップモードの2つがあります。ダイレクトモードは試料から発生したガスを直接、MSに導入し、各瞬間のマススペクトル及びその経時変化を記録する手法で、一般的にTG-MSでの分析はこのダイレクトモードを指すことが多いです。一方、トラップモードはFig. 1に示したように、ある温度範囲で発生したガスを一旦、冷却トラップにて捕集し、その後、GCのオーブンで再加熱、GCカラムで分離して検出する手法です。トラップモードは定性に優れ、また発生ガス中に含まれる微量成分の検出も可能です。ただしダイレクトモードのような経時変化を記録する方法ではなく、任意の温度範囲で発生したガスを捕集して分析するので、リアルタイム性はなくなり、ガスの発生開始温度や発生速度等を調べることは困難です。ダイレクトモードとトラップモード両方に利点があり、リガクのTG-DTA/GC-MSではこの2つのモードの特長を生かして発生ガスの詳細を明らかにすることができます。
Fig. 1 トラップモード.
測定条件
ブレンドコーヒー豆とノンカフェインコーヒー豆(焙煎、粉砕済)をAl試料容器に導入し、He雰囲気において昇温速度20℃/minで加熱しました。その際の試料の重量変化、温度変化及び発生ガスをTG-DTA/GC-MSにて検出しました。イオン化法はEI法を採用しました。
測定結果
Fig. 2にブレンドコーヒー豆のTG-DTA測定結果を示しました。600℃までに約70%の減量が認められました。そこで今回は減量が顕著に見られた300℃前後で発生したガスを捕集し、トラップモードにて分析を行いました。
ブレンドコーヒー豆とノンカフェインのコーヒー豆のトラップモード測定によって得られたTIC曲線をFig. 3に示しました。GCカラムによって捕集したガスを分離するため、各ガス成分がピークとして検出されます。ブレンドコーヒー豆から熱抽出及び熱分解成分として、フラン類やピリジンなど様々なガスが検出されました。また保持時間が18分程度にてカフェイン及び脂肪酸(パルミチン酸)が検出されてい
ます。
一方でノンカフェインのコーヒー豆においてもフラン類やピリジンなどブレンドコーヒー豆と類似の発生ガスを検出しましたが、カフェインは検出されず、また脂肪酸もほとんど検出されませんでした。これはデカフェの工程でカフェイン以外に失われている成分があることを示唆しています。
Fig. 2 ブレンドコーヒー豆のTG-DTA.
Fig. 3 (a)ブレンドコーヒー豆と(b)ノンカフェインコーヒー豆のトラップモードTIC曲線.