ビニル樹脂の熱分解
はじめに
ビニル樹脂は末端二重結合を有するモノマーを重合して得られるポリマーで、ポリ塩化ビニル(PVC、Fig. 1(a))、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール(PVA、Fig. 1(b))などがあります。
ビニル樹脂は工業的に様々な用途で使用されており、当然、廃棄処分する量も膨大です。焼却処分する際には注意が必要で、特にPVCは熱分解により有害なHClガスや有機ハロゲン化物が発生する可能性があります。今回はPVC及びPVAの熱分解挙動をThermo Mass Photoを用いて調べました。
装置
Thermo Mass Photo
光イオン化(PI)技術とスキマー型インターフェースが融合した示差熱天秤-光イオン化質量分析同時測定装置、Thermo Mass Photoは試料を加熱した際の重量変化と熱エネルギー変化を検出すると同時に、発生ガスを分析できる複合分析装置であり、高精度な発生ガス分析を実現しています。新素材開発や製造技術の確立、品質管理、基礎研究を協力にサポートする分析ツールです。
Thermo Mass Photoでは、ガス導入用インターフェースにスキマー型インターフェースを採用することで、発生ガスを高効率でMSへ導入することができるようになりました。またMSにおけるイオン化法として、一般的に使用されている電子イオン化(EI)法に加えて、分子イオンを選択的に検出できるソフトイオン化の一つである光イオン化(PI)法を選択できます。ポリマーの熱分解など、多数の有機ガスが同時発生する場合は、二つのイオン化法を駆使することで、ガス種の特定が従来よりも容易になります。
測定条件
PVC及びPVA標準試料をAl試料容器に4mg程度秤量し、He雰囲気において昇温速度20℃/minで加熱しました。その際の試料の重量変化、温度変化及び発生ガスをThermo Mass Photoにて検出しました。
Figure 1 Structural formula of (a) PVC and (b) PVA.
Figure 2 TG-DTA profile of PVC and MS spectra of 300 ºC and 450 ºC.
Figure 3 MS ion thermograms of PVC for (a) EI and (b) PI.
測定結果
PVC
PVCを不活性のHe雰囲気中で加熱するとFig. 2に示すように2段階で減量することがわかりました。1段目の減量(250~400℃)ではHClとベンゼン、ナフタレンなどの芳香族化合物が発生します。(DTGでは1段目の減量は二つに分けられますが、出てくるガスは同じでした。)
2段目の減量(400~550℃)ではトルエン、キシレンなど、1段目の減量で発生したベンゼンやナフタレンとは異なる芳香族化合物が発生します。各ガスがどのような温度範囲で発生しているのかをFig. 3のMSイオンサーモグラムにて確認しました。
PVCを熱分解させると、HClの脱離によりポリエン構造を形成します。そして環化反応によってベンゼンなどの芳香族化合物が生成します。
Figure 4 TG-DTA profile of PVA and MS spectra of 280 ºC and 450 ºC.
PVA
PVAを不活性のHe雰囲気中で加熱すると、Fig. 4に示したように280℃付近の73%の減量、450℃付近の13%の減量がそれぞれ確認されました。1段目の減量では、Fig. 5に示したようにH2Oとアルデヒド類が検出されました。ポリマー主鎖の開裂に伴うアルデヒド基の生成、及び脱水反応による共役二重結合の生成を反映するような化学種が発生します。
2段目の減量では主に芳香族アルデヒドが検出されました。共役二重結合の環化反応によって芳香環が形成されていると考えられます。
また1段目の減量が始まる前の低温にて、5%の減量と対応するH2O発生が確認されました。水溶性ポリマーのPVAは親水性が高く、H2Oを多く吸着していたと考えられます。
Figure 5 MS ion thermograms of PVA for (a) EI and (b) PI.