ThermomassPhotoを用いたアスベスト熱分解の分析
はじめに
アスベストは天然に産する鉱物群のうちで、高い抗張力と柔軟性を持つ繊維状鉱物をなすものの俗称で、その種類をTable 1に示します。そしてそれらすべてが健康被害を引き起こすことが知られています。今日までのアスベスト全生産量のうち、クリソタイルが約90%、アモサイトが数%、クロシドライトがわずかです。
アスベスト含有廃棄物を処分する際には、高温での溶融処理が必要となります。そのためアスベストを加熱した際の挙動を熱分析・熱測定によって調べ、基礎データを収集することは重要です。今回はアスベストの熱分解挙動をThermo Mass Photoを用いて調べました。
Table 1 Six mineral types defined as asbestos.
Classes |
Types |
Chemical Formula |
Serpentine Group |
Chrysotile |
Mg3[Si2O5](OH)4 |
Amphibole Group |
Amosite |
(Mg < Fe)7[Si8O22] (OH)2 |
Crocidolite |
Na2(Fe2+ >>Mg)3 Fe3+2[Si8O22](OH)2 |
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Anthophylite |
Na7[Si8O22](OH)2 |
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Tremolite |
Ca2Mg5[Si8O22](OH)2 |
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Actinolite |
Ca2[Mg,Fe]5[Si8O22] (OH)2 |
装置
Thermo Mass Photo
光イオン化(PI)技術とスキマー型インターフェースが融合した示差熱天秤-光イオン化質量分析同時測定装置、Thermo Mass Photoは試料を加熱した際の重量変化と熱エネルギー変化を検出すると同時に、発生ガスを分析できる複合分析装置であり、高精度な発生ガス分析を実現しています。新素材開発や製造技術の確立、品質管理、基礎研究を協力にサポートする分析ツールです。
Thermo Mass Photoでは、ガス導入用インターフェースにスキマー型インターフェースを採用することで、発生ガスを高効率でMSへ導入することができるようになりました。またMSにおけるイオン化法として、一般的に使用されている電子イオン化(EI)法に加えて、光イオン化(PI)法を選択でき、ガス種の特定が従来よりも容易になりました。
測定条件
代表的なアスベストであるクリソタイル(JAWE111)、アモサイト(JAWE211)、クロシドライト(JAWE311)の標準試料をPt試料容器に10~20mg秤量し、He雰囲気において昇温速度20℃/minで加熱しました。その際の試料の重量変化、温度変化及び発生ガスをThermo Mass Photoにて検出しました。
測定結果
クリソタイル
クリソタイル標準試料を昇温した際のTG-DTA及びMSイオンサーモグラムをFig. 1に示します。600~700℃にて下記に示すクリソタイルの脱水による重量減量とH2Oの発生が確認されました。
2Mg3Si2O5(OH)4 → 3Mg2SiO4 + SiO2 + 4H2O
また300~400℃のH2O発生はブルーサイトの脱水と推測されます。
Mg(OH)2 → MgO + H2O
H2O以外にもCO2やSO2の発生が確認されました。400℃付近のCO2発生についてはマグネサイトの脱炭酸の可能性が考えられます。
MgCO3 → MgO + CO2
また830℃付近にDTAにて発熱ピークを確認しました。これはフォルステライトの再結晶もしくはエンスタタイトの生成によるものと考えられます。
アモサイト、クロシドライト
アモサイト及びクロシドライト標準試料を昇温した際のTG-DTA及びMSイオンサーモグラムをFig. 2に示します。
アモサイトは800℃付近、クロシドライトは600℃付近で脱水が確認されました。また標準試料に含まれている炭酸塩からの脱炭酸も確認されました。
Figure 1 TG-DTA and MS ion thermogram of chrysotile.
Figure 2 TG-DTA and MS ion thermogram of amosite and crocidolite.