酸化亜鉛ZnOの低温合成 -水蒸気雰囲気中での亜鉛アセチルアセトナートの熱分解-
何がわかるのか?
金属有機酸塩を前駆体とした高濃度水蒸気雰囲気中での加熱プロセスを用いることにより、金属酸化物を低温で生成させることができます。透明導電材料や発光素子として大きな注目を集めているZnOの低温合成挙動および湿度の影響を湿度制御熱分析法により詳細に解析しました。
この結果、乾燥雰囲気に比べ、水蒸気雰囲気の場合には水蒸気濃度の増加に伴って反応プロセスが大きく変化し、100℃程度でも結晶性ZnOを合成可能なことが判明しました。[1]
測定・解析例
様々な調湿窒素ガス雰囲気中(水蒸気濃度PH2O:0.1~16 kPa)において、亜鉛アセチルアセトナート・1水和物C10H14O4Zn•H2Oを昇温速度5℃/minで加熱した時のTG-DTA曲線を図1に示します。水蒸気濃度の増加に伴って総減量率は低下し、またTG曲線そのものは徐々に低温側にシフトします。水蒸気濃度が最も高いPH2O=15.9 kPaでの総減量率は71%(160℃)まで低下し、この値はZnOが生成する理論減量率(71.1%)に一致します。水蒸気濃度の増加に伴い、水和物の脱水が抑制される一方で、水分子との反応による分解が促進され、全体の反応がより狭い温度範囲で完結したものと考えられます。
重量変化速度0.3%/minの速度制御熱天秤(SCTG)にて、乾燥空気と調湿空気雰囲気(PH2O:12 kPa)下において得られたSCTG曲線の比較を図2に示します。一般にSCTGは反応を効果的に低温側にシフトさせ、かつ反応を狭い温度域で完了させることを特徴とし、本実験でも定速昇温TG(図1)に比べて明らかに狭い温度域で反応が完了しています。高濃度の水蒸気雰囲気におけるSCTG法による熱分解は、単一な一段階の反応で進行し、100℃以下という低温域でZnOが容易に合成できることが分かります。
図1 X各種湿度雰囲気中でのC10H14O4Zn・H2OのTG-DTA比較
図2 乾燥空気中と調湿空気雰囲気中(PH2O:11.9 kPa)のSCTG比較(質量変化速度0.3 %/min)
参考文献:[1] T.Arii, A.Kishi, “Humidity Controlled Thermal Analysis: The Effect of Humidity on Thermal Decomposition of Zinc Acetylacetonate monohydrate”, J. Therm. Anal. Cal., 83, 253-260 (2006).
推奨装置:高分解能熱天秤シリーズ ダイナミックTG
水蒸気雰囲気示差熱天秤 TG-DTA/HUM-1