インジウムアセチルアセトナートの加熱変化
はじめに
酸化インジウム(In2O3)は透明導電膜の材料として広く用いられています。代表的な製法はゾルゲル法、CVD法、PVD法などですが、これらの製法中には必ず原料からの加熱プロセスが含まれます。そのため、原料の熱特性を正確に捕らえておくことが、トータルプロセスの効率化にとって大変重要な要素となります[1]。
水蒸気発生装置を接続したTG-DTAによって、雰囲気中の水蒸気分圧の変化が原料サンプルの加熱プロセスに与える影響について詳細に調べることができます。
試料
In2O3の前駆体として利用されるインジウムアセチルアセトナート原料を、水蒸気発生装置HUM-1を接続したTG-DTA、ダイナミックTG(速度制御熱重量測定法)(Thermo Plus TG8120)を用いて測定しました。試料量10 mg、昇温速度10℃/minにて600℃まで、N2雰囲気中の水蒸気分圧を変化させて測定しました。
分析結果
図1は水蒸気分圧を変化させたときのインジウムアセチルアセトナートのTG-DTA曲線の比較を示しています。雰囲気中の水蒸気分圧の増加に伴って、反応温度は低温領域側にシフトします。融解による吸熱ピークは水蒸気分圧変化にはほとんど影響を受けていません。残渣物質についてXRD測定を行ったところ、いずれの条件でもIn2O3のみ生成が確認されました。
図1 インジウムアセチルアセトナートの水蒸気分圧の変化によるTG-DTAデータへの影響
図2に高濃度の水蒸気分圧下でのTG曲線(a)とSCTG(b)の比較を示します。重量減少の速度は水蒸気分圧が高いほど速くなり、測定後の残渣量は、水蒸気分圧12 kPa以上で37%に収束します。これは、インジウムアセチルアセトナートが雰囲気中のH2Oによって優先的に加水分解を引起こし、単一生成物を形成したためと考えられます。
図2(a) インジウムアセチルアセトナートの高濃度の水蒸気分圧下でのTG
図2(b) インジウムアセチルアセトナートの高濃度の水蒸気分圧下でのSCTG
(Sample Controled ThermoGravimetry)
参考文献
[1] 澤田豊監修, 「透明導電膜」, シーエムシー出版, 2007.