高速逆格子マップによるIII-V 族窒化物薄膜の 結晶方位の乱れた成分の検出
はじめに
深紫外線LEDは、水銀ランプに代わる環境負荷の少ない紫外線源として普及が望まれています。近年はその殺菌機能が特に注目を集めており、早期の実用化が期待されています。発光効率向上と長寿命化には、AlGaN発光層のベースとなるAlN層の高品質化が求められます。AlN層の結晶性評価にはロッキングカーブ測定が利用されますが、薄膜中には主要成分に加えて結晶方位が大きく変化した成分が混在する可能性もあります。本測定例では、高速逆格子マップ測定により、結晶方位が大きく乱れた成分の検出を試みました。
測定・解析例
2インチのc面サファイア基板上にc面成長させたAlN薄膜試料について、AlN 0004 および 101 ̅3反射周辺の高速逆格子マップ測定を行いました。この測定法では、検出器の1D露光モードを使用することで、ωスキャンのみで逆格子マップを測定できるため、比較的広い範囲の逆格子マップを短時間で測定可能です(本測定例では0004反射は約3分、101 ̅3反射は約4分)。
試料中央部における0004反射(図1(a))、101 ̅3反射(同(b))の測定では、Qx(試料表面と平行な逆空間軸)方向に広がった逆格子点が観測されました。Qx方向の逆格子点の広がりは、AlN膜の試料面内方向の結晶子サイズが小さいことを反映しています。一方、試料右端(X = 21 mm)で測定した0004反射(図1(c))は、試料中央で測定した結果と比較してQx方向の広がりの裾がさらに広く観測されました。また同測定点の101 ̅3反射(同(d))では、左上-右下方向の逆格子点の広がりが観測されました。この広がりの方向は逆格子原点を中心とした円弧に重なることから、試料右端には、結晶子サイズが小さく結晶方位が揃った主要成分に加えて、結晶方位の乱れた成分が存在することがわかりました(図1(e))。101 ̅3反射のように試料表面に対して傾いた格子面の逆格子マップでは、結晶子サイズの影響と、結晶方位の乱れの影響が、それぞれ異なる方向の逆格子点の広がりとして観測されるため、これらを独立に評価することが可能です。
試料中央部における(a)0004反射 (b)101 ̅3反射 および 試料右端における(c)0004反射 (d)101 ̅3反射(e)結晶方位の乱れた成分の模式図
推奨装置・ソフトウェア
- 全自動多目的X線回折装置 SmartLab + XY-4インチφアタッチメントヘッド
- 統合X線解析ソフトウェア SmartLab Studio II (HRXRDプラグイン)