インプレーンX線回折法による 有機薄膜の結晶成長過程の考察
はじめに
有機TFT(thin film transistor、薄膜トランジスター)材料の中で、ペンタセンはアモルファスSiに迫るキャリア移動度をもつ材料として注目されていますが、目標とする特性を得るには結晶相や分子配向を制御することが不可欠です。今回は、膜厚の異なるペンタセン薄膜の結晶相の同定、配向の評価を行いました。
測定・解析例
Si 100基板上の膜厚300 nmの熱酸化膜上に、ペンタセン薄膜(膜厚150 nm、20 nm)をMBE法にて製膜しました。図1にアウトオブプレーンX線回折(2θ/θスキャン)プロファイル、図2にインプレーンX線回折プロファイル(1)を示します。
図1 アウトオブプレーンX線回折測定結果(試料表面に平行な格子面による回折)
図2 インプレーンX線回折測定結果(試料表面に垂直な格子面による回折)
両試料において、アウトオブプレーンX線回折測定ではペンタセン 00l 系列のみ、インプレーンX線回折測定ではペンタセン hk0 系列のみの回折ピークが確認されたことから、ペンタセンは試料表面に対してc軸配向していることがわかりました。膜厚20 nm試料ではc軸長が15.40 Åの薄膜相の回折線のみが観測されたのに対し、膜厚150 nmの試料ではc軸長が14.40 Åであるバルク相の回折線も観測されました(2)(3)。このことからペンタセン薄膜の成長過程において、初期段階では薄膜相が生成し、膜厚が大きくなるにつれてバルク相が生成することが示唆されます。
インプレーンX線回折測定で観測された薄膜相ペンタセン100 回折ピーク(2θ=19°)から、シェラー法を用いて結晶子サイズを見積もったところ、面内方向の結晶子サイズが両試料とも50 nm程度という結果が得られました。このことから、面内方向の結晶性は膜厚によらず一定であることがわかりました。
試料ご提供:東京大学 斉木研究室 様
参考文献: (1) 稲葉克彦: リガクジャーナル, 35(1) (2004) 27-36.
(2) C.C. Mattheus, et al: Acta Crystallogr. Sec.C., 57(2001) 939-941.
(3) J.S. Wu and J.C.H. Spence: J. Appl. Crystallogr., 37(2004) 78-81.
推奨装置
- 全自動多目的X線回折装置 SmartLab (インプレーン軸・φ軸搭載) + RxRyアタッチメント