シームレス多次元ピクセル検出器を用いた電池正極材料中の微量成分検出
はじめに
硫化物系固体電解質を用いた全固体リチウムイオン電池(全固体電池)の正極材料には、固体電解質層との 界面安定性向上のため、微量なコーティング成分が含まれていることがあります(1)。代表的なコーティング成分で ある LiNbO3 は、非晶質・結晶質のそれぞれでリチウムイオン伝導度が異なり、非晶質の方が高いイオン伝導度を 有します。したがって、電池特性の評価にはコーティング成分を含めた結晶相分析が必要になります。しかし、Cu 線源を用いたX線回折法では、正極材料中の遷移金属由来の蛍光X線によりバックグラウンド強度が上昇するため、微量成分の検出には課題が残ります。本測定例で紹介するシームレス多次元ピクセル検出器 (XSPA-400 ER)は、従来の検出器よりも高いエネルギー分解能を備えているため、蛍光X線によるバックグラウンド強度の上昇を抑えることができます。このため高PB(peak to background)比のデータが得られ、微量成分の回折線を高感度に検出 することが可能です。ここではXSPA-400 ERを用いて、LiNbO3でコーティングしたLi(Ni1/3Co1/3Mn1/3)O2 (以降、NCM111 とします)の測定を行いました。
測定・解析例
表面を微量のLiNbO3でコーティングしたNCM111のX線回折測定結果を図1(a)に示します。測定はXSPA-400 ERおよび1次元検出器(D/teX Ultra250)を用いた1次元スキャンで行いました。両者を比較すると、バックグラウンド 強度はXSPA-400 ERの方が低くなり、NCM111の第一強線からPB比を算出すると、XSPA-400 ERはD/teX Ultra250と比べて高い値が得られました。また、図1(b)に示す拡大図より、D/teX Ultra250 ではバックグラウンド強度の上昇によりLi0.585NbO3に帰属される微小な回折線の明瞭な検出は困難でした。一方のXSPA-400 ERでは感度良く観察されています。このようにXSPA-400 ER は高いエネルギー分解能により蛍光 X 線によるバックグラウンド強度の上昇を抑制できるため、正極材料中の微量成分の検出に有効です。
図1 LiNbO3 でコーティングした Li(Ni1/3Co1/3Mn1/3)O2 における検出器ごとの測定結果
(a)X線回折パターン(b)2θ = 21°付近の拡大図
参考文献: (1) A. M. Glass, K. Nassau, T. J. Negran: J. Appl. Phys., 49(1978) 4808-4811.
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