X線回折法による リチウムイオン電池カーボン負極材料の黒鉛化度評価
はじめに
リチウムイオン電池は、携帯電話、スマートフォン、電気自動車などの我々の日常生活のいたるところで使用されています。 リチウムイオン電池は、主に正極材、負極材、セパレーター、電解液から構成されており、その中でも負極材は、電池の放電容量、エネルギー密度や安全性に対して重要な影響を及ぼします。負極材として広く使用されているカーボンは、黒鉛構造の発達の程度(黒鉛化度)により電池の放電容量を左右します。本測定例では、高分解能・高速1次元X線検出器を搭載した小型X線回折装置を用いて、JIS R7651:2007に準拠して格子定数および結晶子サイズを求め、カーボン負極材料の黒鉛化度評価を行いました。
測定・解析例
黒鉛化度評価用の試料として、焼成条件の異なる3点のカーボン(A, B, C)を用いました。これらのカーボン試料に、ピーク位置・幅を補正するために、内部標準物質としてSiを約10 mass%混合し測定試料としました。図1に各カーボン試料のX線回折プロ ファイルを示します。Aではカーボン由来の結晶質ピークは認められませんでしたが、B, Cではカーボン由来の結晶質ピークが 観測されました。
表1に面間隔d002、格子定数c0および結晶子サイズL002を示します。面間隔d002と結晶子サイズL002はX線分析統合ソフトウェアSmartLab Studio IIを用いて算出し、格子定数c0は面間隔d002を2倍して求めました。カーボンは、黒鉛化が進んでいるものほど面間隔が小さく(カーボン層の層間が狭く)、結晶子サイズが大きい(結晶性が高い)傾向にあります。表1より、面間隔d002は A>B>C、結晶子サイズL002はA<B<Cであるため、黒鉛化度はAが最も低く、A<B<Cであることが示唆されました。また、 黒鉛化度(P1)を、d002 = 3.354P1 + 3.44(1 - P1)の関係式(1),(2)を用いて実際に算出した結果も表1に示しました。このようにX線 回折装置を用いることで、カーボン負極材料の格子定数および結晶子サイズを求め、黒鉛化度評価を行うことが可能です。
図1 カーボン試料A, B, CのX線回折プロファイル
表1 カーボン試料A, B, Cの黒鉛化度算出結果
Carbon samples | d₀₀₂ (Å) | c₀ (Å) | L₀₀₂ (Å) | P₁ | d₀₀₂: 平均面間隔 c₀: 格子定数 L₀₀₂: 結晶子サイズ P₁: 黒鉛化度 |
A | 3.44 | 6.88 | 14 | 0 | |
B | 3.371 | 6.742 | 575 | 0.76 | |
C | 3.363 | 6.726 | 1587 | 0.85 |
参考文献: (1) 稲垣道夫, 白石 稔, 中溝 実, 菱山幸宥: 炭素, 118(1984), 165-175.
(2) 野田稲吉, 岩附正明, 稲垣道夫: 炭素, 47(1966), 14-23.
推奨装置・ソフトウェア
- デスクトップX回折装置 MiniFlex + 高速1次元X線検出器 D/teX Ultra2
- 小型X線回折装置 MiniFlex XpC + 高分解能・高速1次元X線検出器 D/teX Ultra250
- X線分析統合ソフトウェア SmartLab Studio II (Powder XRDプラグイン)