DD法®によるでんぷんの定量分析
はじめに
粉末X線回折には、RIR法やリートベルト法と呼ばれる定量分析方法がありますが、一般的な解析対象は結晶性が高く、シャープなピークを示す物質です。一方粉末X線回折法による定性分析の対象には、高分子や食品など、結晶性が低くブロードなピークを示す物質も含まれます。このような結晶性が低い物質は、(1)データベースに参照強度比(RIR値)や構造情報が登録されていない場合が多いこと、(2)測定データから各成分の強度を抽出することが難しいことから、RIR法やリートベルト法による定量分析は行えませんでした。当社が開発したDirect Derivation (DD)法®では、RIR値も結晶構造情報も必要とせず、ブロードなピークの強度抽出にも対応しています。ここでは、2種類のでんぷんの重量分率(濃度)を算出した例を示します。
測定・解析例
「とうもろこしでんぷん」濃度が5、30、50、70、95 mass%になるように、「とうもろこしでんぷん」と「ばれいしょでんぷん」とを混合しました。X線回折プロファイルを約6分で測定し、DD法®による全パターンフィッティング(WPPF)により重量分率を算出しました。図1には、二つのでんぷんのX線回折パターンを示します。いずれもブロードなピークを与えますが、二つの物質を区別することができることがわかります。図2には、とうもろこしでんぷん50 mass%のデータに対するWPPFの結果を示します。測定データと計算データが良くフィットしていることがわかります。表1には5つの混合物の解析結果のRwp、S値、調製値および定量値を示します。この結果から、RIR値も結晶構造情報も入手できない低結晶性物質に対しても、定量分析ができることがわかります。
図1 2つのでんぷんのX線回折パターン
図2 とうもろこしでんぷん50 wt%のWPPF結果
表1 Rwp、S値、とうもろこしでんぷん濃度の調製値および定量値 (mass%)
5% | 30% | 50% | 70% | 95% | |
Rwp (%) | 1.92 | 1.81 | 1.87 | 1.84 | 1.96 |
S | 1.3792 | 1.3014 | 1.2852 | 1.2652 | 1.4229 |
調製値 | 5.0 | 30.0 | 50.0 | 70.0 | 95.0 |
定量値 | 5.5(4) | 30.8(3) | 47.8(3) | 68.1(3) | 94.5(4) |
参考文献: (1) H. Toraya: J. Appl. Cryst., 49 (2016) 1508-1516.
(2) H. Toraya: J. Appl. Cryst., 50 (2017) 820-829.
推奨装置・ソフトウェア
- 全自動多目的X線回折装置 SmartLab + ASC-10アタッチメント
+ 高分解能・高速1次元X線検出器 D/teX Ultra250 - X線分析統合ソフトウェア SmartLab Studio II (Powder XRDプラグイン)
※「DD法」「Direct Derivation Method」「DD Method」は、株式会社リガクの商標または登録商標です。