X線回折装置による油脂の結晶化過程観察
はじめに
食品、医薬品、化粧品、洗剤に使われている植物性油脂は、脂肪酸3分子とグリセロール1分子からなるトリアシルグリセロール(Triglyceride:TAG)分子で構成されています。TAGの脂肪酸の種類や結晶内の配列により融点の異なる結晶多形が存在し、油脂の基礎物性研究や産業応用ではこの結晶多形現象を把握することが極めて重要と言われています。ここでは、X線回折-示差走査熱量の同時測定を用いて、代表的なTAGであるトリパルミチン(PPP)の結晶化過程を調べました。
測定・解析例
PPPを加熱融解し、0.5 ˚C/minで室温まで冷却したのち、0.5 ˚C/minで昇温しながらXRD-DSC同時測定を行いました(図1)。XRDパターンの変化とDSCチャートを図1に示します。室温でのXRDパターンでは、2θ = 10 ˚以下に油脂鎖長構造、2θ = 15 ˚以上に副格子構造に由来するピークが観測されました。加熱を行うと、51 ˚C と 55 ˚C に微小な発熱ピーク(DSCチャート赤矢印)が観測されました。この温度前後のXRDパターンの比較から、PPPの加熱に伴うβ ’型→β 型への相転移は、まず副格子構造が変化し、次いで鎖長構造が変化する、段階的な現象であることがわかりました。以上のように、XRD-DSC同時測定では同一測定環境下で熱反応とX線回折パターンの変化を観察できるため、X線回折パターンの比較のみでは判別しにくい結晶化のオンセット温度の確認が容易です。
図1 PPPのXRD-DSC測定プロファイル
参考文献:佐藤清隆、小林雅道編「脂質の構造とダイナミックス」共立出版, 1992.
M.Kellens et al, Chemistry and Physics of Lipids, 52 (1990), 79-98.
M.Kellens et al, Chemistry and Physics of Lipids, 58 (1991), 131-144.
上野 聡ら、放射光 11 (1998), 208-217.
推奨装置・ソフトウェア
- 全自動多目的X線回折装置 SmartLab + X線回折-示差走査熱量同時測定装置 X-ray DSC
- X線分析統合ソフトウェア SmartLab Studio II (XRD DSCプラグイン)