凍結乾燥プロセスにおける 医薬品材料の結晶相同定
はじめに
水溶液にすると即座に分解が進行する医薬品(用時溶解型製剤)は、凍結乾燥によって製造されます。この凍結乾燥は、水の凍結と溶液の濃縮を行う「凍結」、氷を昇華させる「一次乾燥」、固体部分から水を蒸発させる「二次乾燥」の三つのプロセスから成ります。一次乾燥温度が高いと乾燥時間を短縮できますが、この温度が高すぎると構造崩壊が起きるため、構造崩壊しない最大許容温度や適切なアニール条件の検討が行われています。 しかし、添加物の種類や濃度によって結晶化・転移挙動が変わるため、凍結乾燥の条件決定は煩雑であるといわれてきました。そこで、試料低温・中温アタッチメントを用いて、実際の凍結乾燥プロセス中の結晶相転移のその場観察を試みました。
測定・解析例
マンニトールは用時溶解型製剤の賦形剤として広く用いられている糖アルコールです。このマンニトールの15 mass%水溶液を用いて凍結乾燥のシミュレーションを行いました。図1に、実際の凍結プロセスに相当する-40°C(常圧)、一次乾燥プロセスに相当する -20°C(減圧)、二次乾燥プロセスに相当する 20°Cと40°C(いずれも減圧)の条件下で測定したマンニトールのX線回折プロファイルを示します。データベースに収録されている一般的な粉末X線回折パターンを用いて各温度での結晶形を同定した結果、凍結プロセスでマンニトールは 1/2 水和物とβ型として析出し、二次乾燥の途中の20°Cまではこの 2 相が存在することがわかりました。その後、二次乾燥温度が 40°Cに達すると、1/2 水和物が脱水し、α型、δ型へと転移することがわかりました。このように、低温・中温アタッチメントを用いることで、温度や真空度を変化させた状態での結晶形態を知ることができます。
図1 -40°C(常圧)、-20°C、20°C、40°C(いずれも減圧)条件下で測定された
15 mass%マンニトール水溶液のX線回折パターン
推奨装置
- 全自動多目的X線回折装置 SmartLab + 中低温アタッチメントTTK 600