平行ビーム光学系と赤外線加熱高温装置を用いた 格子定数の温度依存性評価
はじめに
X線回折測定によって、材料の結晶構造に基づく結晶相の同定や格子の長さ、原子の座標位置などを評価することができます。したがって、X線回折法は材料物性の研究には欠かせない分析手法の一つです。その中でも、高温下でのX線回折測定は、通常の測定で得られる材料の構造や物性以外に、高温下で起こる相転移や化学反応、劣化状態や合成プロセス、格子定数の温度依存性などを知ることができる有効な手法です。
測定・解析例
固体酸化物型燃料電池用電極である(La0.9,Sr0.1)MnO3の格子定数の温度依存性の評価を行いました。高温下では熱膨張とともに試料表面形状に乱れを生じます。このような試料表面形状の影響を受けない平行ビーム光学系を用い、正確な回折角度を算出しました。また、安定した温度と測定雰囲気を保つため、赤外線加熱高温装置Reactor Xを用いて高温下の測定を行いました。なお、今回の測定は大気中で行っています。図1に、室温、400、600、800、900、1000°CにおけるX線回折パターンと定性分析結果を示します。測定の結果、室温から1000°Cまで、(La,Sr)MnO3(六方晶系c)の単相であり、これら測定温度で相変化がないことがわかりました。
次に、Rietveld解析により、各温度の格子定数を算出しました。図2に示すように、c 軸は昇温に対してほぼ直線的に膨張し、a 軸は800°C付近から膨張率に変化を生じ、この温度を境に膨張率が異なることがわかりました。このように、平行ビーム光学系と赤外線加熱高温装置を用いることで各温度における正確な格子定数を算出することができます。また、今回の測定雰囲気は大気中ですが、赤外線加熱高温装置は試料部と加熱ヒーター部が分離しているため、H2などのさまざまなガス雰囲気下での測定が可能です。
図1 各温度での(La0.9,Sr0.1)MnO3のX線回折パターンと定性分析結果
(強度はオフセット表記)
図2 (La0.9,Sr0.1)MnO3の格子定数の温度依存性(上図:a軸 下図:c軸)
推奨装置・ソフトウェア
- 全自動多目的X線回折装置 SmartLab SE
- 全自動多目的X線回折装置 SmartLab
- 赤外線加熱高温装置 Reactor X
- X線分析統合ソフトウェア SmartLab Studio II
(Powder XRDプラグイン)